ハリーと消えたガラス


 ハリーがダドリー達のところへ行くと、4人は丁度昼食を食べ終わっていた。一番にハリーに気づいたのはダドリーだった。

「ママ! ハリーが戻ってきたよ!」

ハリーと目が合うと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてペチュニアおばさんにハリーまで聞こえるくらい大きな声で言った。
それを聞いたおばさんは、キッと一瞬ハリーを睨みつけたかと思うとすぐに眉を下げていかにも心配でたまらなかったというような表情を作った。そして到底心配しているとは思えない声色でハリーに話しかけた。

「どこへ行っていたの? 心配したのよ?」
(そんなこと思ってないくせに)

ハリーは、どうせまわりの目を気にしているのだと思ったが、ここで機嫌を損ねられたら後が大変だとわかっているので、愛想笑いを浮かべて謝った。

「ごめんなさい。人が多くてなかなか見つけられなくて」

おばさんは無視をすることにしたのか、項垂れるハリーを置いてさっさとフードコートから出て行ってしまった。その後にダドリーとピアーズが続き、おじさんも出て行くかと思いきや、ハリーに近づいてきて、

「おい小娘。今日は晩飯抜きだからな」

と言い捨てて行く。

(今日はご飯抜きか)

そう思うと少し憂鬱になるハリーだったが、ポケットに入っている食べかけのチョコの存在で幾分か気が軽くなった。







 それ後、ハリー達は爬虫類館を見て回った。館内はヒヤッとして暗く、壁に沿ってガラスケースが並び、大小様々な蛇やトカゲが材木や石の上をスルスルと這い回っていた。おばさんは一刻も早くここを出たいようだが、ずっと薄暗い物置で暮らしていたハリーからすれば、ここはすごく落ち着くところだ。

 色々な蛇を見て回っている中で、ひときわ目を引いたのは館内でも一番大きいであろう蛇だ。ダドリーも見つけたらしく、その蛇がいるガラスケースへ駆け寄る。おじさんの車を二巻きも出来るほどの大蛇を、ガラスに顔をくっ付けて見ているダドリーは面白かった。

(ああしてればダドリーも可愛いんだけどな)

ハリーが呑気にそう思っていると、ダドリーは蛇が寝ているのがつまらないらしく、なんとか蛇を起こそうとしていた。

「起こしてよ」

ダドリーは自分の父親であるバーノンにせがむ。おじさんはガラスをトントンと叩いたが、蛇は身じろぎひとつしない。

「もう一回」

ダドリーが命令する。おじさんは、今度は拳でドンドンとガラスを叩いた。だが、蛇は眠り続けている。

「つまんないや」

 ダドリーはブウブウ(それこそ豚のように)言いながら行ってしまった。ハリーはガラスの前にきて、じっと蛇を見つめた。ハリーは蛇に同情した。一日中、ガラスを叩いてちょっかいを出すバカな人間以外に友達もいない……。

(考えてみると私と同じだ……)
「大変だね」

そう誰に呟いたかもわからない言葉を吐くと、突然、蛇はビーズのような目を開け、ゆっくり、とてもゆっくりとかま首をもたげ、ハリーの目線と同じ高さまで持ち上げた。急にどうしたのだろうとハリーが思っていると、蛇がウインクした。ハリーは目を見張った。あわてて誰か見ていないかと、周りを見回した。
誰もいない。ハリーは視線を蛇に戻し、ウインクをし返した。が、途端に恥ずかしくなり、顔を赤くしてうつむいた。

(何やってるんだろ……私)

ハリーが顔を上げると、蛇はかま首をバーノンおじさんとダドリーのほうに伸ばし、目を天井に向けた。その様子は、明らかにハリーにこう言っていた。

「いつもこうさ」
「わかるよ」

蛇に聞こえるかどうかわからなかったが、ガラス越しにハリーはそう呟いた。

「毎日こんな調子だとほんとにイライラするでしょう」

蛇は激しくうなずいた。ふと、ガラスケースの横にある掲示板を見る。
ブラジル産ボア・コンストリクター 大ニシキヘビ
と書いてある。

「ブラジルで生まれたの?いいところ?」

蛇は掲示板を尾でツンツンと突ついた。
この蛇は動物園で生まれました

「そうなんだ……じゃあ、ブラジルに行ったことはないんだね?」

蛇がうなずいた途端、ハリーの後ろで耳をつんざくような大声がした。ハリーも蛇も飛び上がりそうになった。

「ダドリー!ダーズリーおじさん!早くきて蛇を見て。信じられないようなことやってるよ!」

誰かと思って後ろを振り返ると、そこにはピアーズがいた。

 ハリーが呆然としていると、ダドリーがドタドタと、それなりに全速力でやってきた。

「どけよ、おいっ」
「うっ」

ダドリーがハリーのわき腹にパンチを見舞った。不意を食らってハリーはコンクリートの床にひっくり返ってしまう。
 ハリーが床の上で殴られたお腹を抑えている間に、ダドリーとピアーズはガラスに寄りかかって蛇を見ようとしていた。しかし、次の瞬間、二人は恐怖の叫び声を上げて飛び退いた。
 ハリーは起き上がり、息を呑んだ。ニシキヘビのケースのガラスが消えていた。大蛇がズルズルと外に這い出てきた時、館内にいた客たちは叫び声を上げ、出口に向かって駆け出した。

 蛇がスルスルとハリーのそばを通り過ぎたとき、ハリーには低いシューシューという声が聞こえた。

「ブラジルへ、おれは行くーーシュシュシュ、お嬢さんありがとよ。アミーゴ」

「かっこいい……」

 飼育員が慌てて駆けつけたときには、腰が抜けて動けないダドリーとピアーズ、それからキラキラとした目を蛇の去った方へ向けている少女がいた。

 その後、混乱しているピアーズとダドリー、それからペチュニアおばさんを落ち着かせて、車に乗せるのに随分時間がかかった。

 おじさんは、おばさんがヒステリーを起こしたのでハリーのことなど気にも留めなかったが、落ち着いてきたピアーズの一言によって状況が一転した。

「ハリーは蛇と話してた。ハリー、そうだろ?」

 運転席に座っているおじさんの顔をバックミラー越しに見ると、今までにないほど赤くなっていた。

(家に帰ったらお仕置きか……)

ハリーは、高揚していた気分が一気にしぼんでいくのを感じた。
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