動物園に行けることになったので、ハリーは自分の持っている服(と言っても全てダドリーのお下がり)の中で一番綺麗な服に着替えた。おじさんとおばさんは嫌そうな顔をしたけど、それがダドリーの服だったことを知っているので、何も言ってこなかった。
ハリーが車まで来ると、すでにピアーズがきていた。ダドリーが一番に車の後部座席に座ろうとしたから、ハリーは説得しなければならなかった。
「ダ、ダドリー、真ん中に座らない? ほら、今日の主役はダドリーなんだから、真ん中がいいよ!」
何とかダドリーを真ん中に座らせて、ピアーズ、ダドリー、ハリーの順で座ることになった。
(よかった……ダドリーなら大丈夫、なはず)
実はハリー、ダドリー達に虐げられていたせいか、自分と歳が近い男の子がそばにいると震えが止まらなくなるのだ。ダドリーは同じ家に住んでいるので、嫌でも慣れざるを得ないが、他の人はどうしても無理だった。
動物園まで車を走らせているなか、ハリーは窓の外を眺めていた。隣の車道をオートバイが走っているのを見たとき不意に思い出す。
(そういえば、今朝の夢にオートバイが出てたっけ。たしか……)
「空飛ぶオートバイ……」
呟いてから急いで口を塞いだが、気づいた時には遅かった。バーノンおじさんはハリーの呟きを聞いた途端に急ブレーキをかけた。運転席からぐるっと振り向きざま、口ひげを生やした巨大な赤カブのような顔でおじさんはハリーを怒鳴りつけた。
「オートバイは空を飛ばん!」
ダドリーとピアーズがクスクス笑った。
「ご、ごめんなさい」
ハリーは、またやってしまったと頭を抱えた。それから動物園に着くまで、ハリーは必死に喋らないようにした。
(こんなことで怒られて、初めての動物園を台無しにしたくないもの)
◆
その日は天気もよく、土曜日とあって動物園は家族連れて混み合っていた。ダーズリー夫婦は入り口でダドリーとピアーズに大きなチョコレート・アイスクリームを買い与えた。
(うわぁ、猿がいっぱいだ…。可愛い)
ハリーが猿のエリアに夢中になっていると、ダドリーが自慢気にハリーの前でアイスクリームを食べた。ハリーは内心邪魔だなぁと思っていたから、ダドリーから少し離れる。ダドリーが近づく、ハリーが離れる。そんなやり取りを少しした後、ダドリーはハリーの反応があまりなかったのが癇に障ったらしく、地団駄を踏んでゴリラの檻の方へ行ってしまった。
(あのゴリラ、ダドリーにそっくり)
ハリーもじっくり猿を堪能した後、ダドリー達に追いついてゴリラの檻を眺めていた。
ハリーが一回一回じっくり見ているので、ダドリー達は飽きれてハリーを置いて次のエリアに行ってしまった。
しばらくしてからみんながいない事に気づいたハリーが急いでまわりを探してみるが、広い動物園の中を探すのは一苦労だ。
今は諦めて公園のようなところで休んでいる。
(置いてかれちゃった…)
また怒られるんだろうな、とこれから起こることを想像してハリーがウンウン唸っていると、
「どうしたんだい?」
と、誰かに話しかけられた。
びっくりして振り返ると、そこには顔に傷がある男の人がいた。一瞬恐ろしく感じたが、よく見ると優し気な顔に気遣うような色がうかがえる。
「迷子かな? お父さんとお母さんはどこだい?」