始まりの誕生日


「ハリー!早く起きろよ!」

ハリーの今朝の目覚めは、ダドリーの怒声という最悪のものだった。
ドタドタと足音を立ててダドリーが(もちろんわざとに決まっているが)階段を降りるものだから、階段の下にあるハリーの部屋はカタカタと小刻みに揺れる。

(ダドリーが起きてるってことは、私は寝坊しちゃったのか……)

いつも通りならこの後、叔母のペチュニアがキンキン声で起こしにくるはずだ。そうしたら決まって朝食抜きになるので、ハリーは急いで支度をしてキッチンに向かった。

「ハリー、今起きたのかい? 遅いじゃないか。今日はダドリーちゃんの誕生日なんだから、全て完璧にしなきゃいけないのに」

「ごめんなさい、おばさん」

ハリーがキッチンに行くと、ペチュニアからお小言を頂戴してしまった。ハリーが謝ると、それに何を言うでもなく、ペチュニアは朝食の用意をするように指示した。ハリーはいまだ眠気の取れない重い体を動かしてテーブルの上に食器を並べていった。
ダドリーの誕生日ーーハリーが最も惨めな思いをする日だ。叔父であるバーノンは、ペチュニア同様に大変な親バカなうえにドリル会社の社長だからか、ダドリーの誕生日にはいつもプレゼントを山のように買う。今年もリビングの床にこれでもかというほどの大小様々な箱が散乱している。これだけあるにもかかわらず、ダドリーは去年より2つも少ないと騒いでいた。

(37個もあれば十分だと思うけど)

ハリーはといえば、誕生日プレゼントはダドリーのお下がりで、大抵どこかしら壊れている。それでもまだいい方で、悪い時は誕生日すら忘れられる時だってあるのだ。

(今年もどうせ忘れるんだ。おばさんとおじさんは、私のことを極力忘れるようにしてるから)

ハリーは小さく、本当に小さく、

「神様なんて大嫌い……」

と呟いた。







ダドリーの十一回目の誕生日は、動物園に行くことにしたらしい。ダドリーが散々自慢してくるが、ハリーは早く近所に住むフィッグさんのところで猫と戯れたかったのであまり気にならなかった。

(ティブルスは元気かな。スノーイーはまた太ってないといいけど)

ハリーにとって猫ーー動物は癒しの存在だった。可愛らしい姿を見ていると、ダーズリーの家で起きていることを忘れられるからだ。
ハリーが猫達に思いを馳せていると、なにやらペチュニアのキンキン声とダドリーの泣き声が聞こえてきた。

(私、また無意識のうちに何かしちゃったのかな)

#名前のまわりではよく不思議なことがおきていた。ハリーは自分が無意識のうちにやったのだと思っているが、それにしては不思議すぎる出来事ばかりだ。

あるとき、ダドリーにハサミで髪をぐちゃぐちゃに切られたことがあった。切った本人のダドリーはもちろん、彼の悪友(どちらかというと子分)のピアーズ、デニス、マルコム、ゴードン達はハリーを見てバカ笑いしたし、ハリーもハリーで泣いてしまったから余計にバカにされた。ただでさえぶかぶかの服を着てセロハンテープだらけのメガネ姿のハリーは笑の種だったのに、こんな姿で学校へなど行ったら確実にバカにされる。ハリーはその日の夜、明日のことを思うと心配で眠れなかった。
ところが翌朝起きてみると、髪は切られる前と全く変わりがなかった。おかげでハリーは、ダドリーにぶたれるはめになったが、どうしてこんなに早く髪が伸びたのかなどハリーにわかるはずもない。

一番ひどい目にあったのが、学校の屋根事件だった。いつものようにダドリー軍団に追いかけられたハリーは、気がついたら食堂の屋根の煙突の上に腰掛けていた。ハリーは必死に逃げているうちに無意識に登ってしまったんだと思ったが、バーノンにそのことを言うと、

「そんなことがあるはずないだろうが!」

と言われ、罰として物置に閉じ込められてしまった。

ハリーが今までのことを思い出していると、不意にバーノンに話しかけられた。

「ハリー、おまえも一緒に動物園に来るんだ」

「えっ……」

苦々しい顔でバーノンがハリーに言う。
思わず声が出てしまったのは仕方がないと思うが、バーノンは少しでもハリーが喋るのが我慢ならないようで、先ほどよりも怖い声でこう言った。

「さっさと支度しろ! 言っておくが、少しでも変なことをしてみろ。クリスマスまでずっと物置に閉じ込めてやるからな」

怖い顔をしてどなるおじさんだが、言われた当人のハリーはあまりにも驚いたので口をポカンと開けて呆然としていた。しかしすぐに瞳をキラキラ輝かせ、

「絶対しません!」

と宣言した。
おじさんはそれでも信じられないようで、胡散臭いものでも見るような目でハリーを見ていたが、ハリーはそれに気づかず、期待に胸を膨らましていた。
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