ああ腐ってるな、と最近よく思う。
例えばいつも通り帰宅して、ああ食べたい、と思う。空腹感があるわけではない。ただ食べたい、と思う。
カップ麺の蓋をペリペリと捲って、ポットからお湯を注ぐ。三分の間にチョコレートを食べる。カップ麺を空にすると目についた菓子パンの袋を破る。物足りなさを感じてクッキーに手を伸ばす。甘さに飽きて煎餅なんて見つけてみる。やっぱり甘さが恋しくなって、最後にチョコレートを一粒。もう一粒。もう一粒だけ。これが本当に最後。
若干の気持ち悪さと中途半端な満腹感に、全てを吐き出してしまいたくなる。トイレに行って喉に指を突っ込もうかと少し考える。事後の不快感を想像して、やめる。もっと食べて食べて食べて、いっそ過食症にでもなったら楽だろうか、なんて一瞬でも考えてしまう自分はやっぱり腐っている。
なにもする気が起きなくてベッドに倒れる。特に睡眠が不足していた覚えは無い。
あれをしなきゃいけない、これをしなきゃいけない、と考えながらも身体は既に動くことを拒否している。布団の柔らかさに全てを吸い取られる。少しだけなら、少しだけ、もう起きるから、ああ、あれをしなきゃそれをしなきゃ、昨日もやりそこねたあれを・・・それはいつまでにやればいいのだっけ・・・頭が、働かな、い・・・。
ああいけない。もう起きなきゃ、起きなくちゃ。さっき食べた物が体内に蓄積する感覚。必要以上のそれがどんどんどんどん蓄積していく。動かなきゃ。動かさなきゃ。消費しなくちゃ。身体の内側から蝕まれる前に。起きなくちゃ。
でも足りない。なにかが足りない。例えば手。例えば全身。例えば、胸のあたりのそれ。
足りない。背中。指先。ぬくもり。体温。そう、体温。感触を、想像して、妄想して、想い描いて。熟しすぎている甘美な空想。体温。熱。感触。感覚。指先。熱。体温。
体温。
ゆめのなかのぬくもり。
目が覚めた時には空腹。
眠る前に摂取した食べ物を想像しながら、胃に質量を放り投げていく。
ああ腐ってる。
ぼんやりしていると、体温が恋しくなって無意味なそれ。
ああ腐ってる。
そしてそのまま目蓋が重くなって、なにもしないでおやすみ。
ああ、腐ってる。
ループ。
腐ったループ。
それを日常生活に織り交ぜる。
ふとした時、酸素が足りなくなる。
理由は分からないが、いくら空気を吸っても酸素が足りないと感じる。深呼吸をして、肺いっぱいに空気を吸い込んで、酸素を取り込んで。それでも足りない。空気に満たされた肺は酸素を、と要求する。酸素。酸素。酸素が足りない。酸素。
苦しい、と感じる。
一瞬、ああこのまま酸素が足りなくなって、内部から腐っていって、崩れてしまえないだろうか、と考える。あのループから、抜け出して。どちらにしろ腐ることに変わりはない。
そんなことを考えても、酸素はそのうち補給される。肺はおとなしくなる。腐ることは、無い。
腐ることを恐れながら腐ってしまうことを望む。それがまた恐ろしくなって腐った行為。ああなんて陳腐なループ。
腐敗
110603