ハルはハイヒールを買いました。それはそれは、とってもキュートでとびきりクールなハイヒールです。ハルはこのハイヒールを買う必要がありました。このハイヒールを買うことはハルにとって宿命であり義務だったのです。
 ハルはハイヒールを買うために一生懸命アルバイトに励みました。ケーキ屋さんのアルバイトです。ふわふわと甘い匂いに似つかず、ケーキ屋さんのお仕事はなかなかハードでした。大好きなお菓子たちに囲まれていればそんな苦労は忘れてしまいましたが、おろしたてのハイヒールに足を入れた瞬間の喜びはひとしおです。
 さて、そんなわけでハルの足元にはつやつやのハイヒールさんが凛としたお姿でいらっしゃいます。自然とハルの背筋もぴん、と伸びます。なんだか勇気が湧いてきます。ハルは新しいハルになります。
 春は素敵な季節です。ハルはハルと同じ名前のこの季節が大好きです。新しい季節です。色んなものが新しくなります。ハルが新しくなるにはぴったりです。
 ハルはかつて中学生でした。今は中学生ではありません。ハルは今まで高校生でした。もう高校生でもありません。ハルは子供だったのです。しかし甘い甘い子供時代の終わりは、すぐそこまで迫っています。見えないけれどしっかりと存在するボーダーラインは目の前に横たわっているのです。本当のことを言えばハルは大人になんてなりたくありません。でもハルは決心しました。
 ハルは今日、大好きなこの町を出て行きます。大好きなものと離れることが辛くない、と言ったら嘘になります。ハルは甘くて優しいこの町が大好きでした。ですがハルは決心したのです。この決意が揺らぐことはありません。ハルはビターな味も嗜む、立派な大人になるのです。素敵な大人のレディになって、いつまでも子供でいようとする貴方とは違うと、証明してみせるのです。そのために、そのための第一歩として、ハルはこのとってもキュートでとびきりクールなハイヒールを買いました。特別なハイヒールです。新しいハルの、新しいハルによる、新しいハルのための素敵なハイヒール。このハイヒールで、目の前のボーダーラインを、思いきり踏みつけて、ハルは新しいハルになります。

 ただ少し、靴擦れだけが、心配です。





背伸びしたかかと
130827 三浦



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