なにか考え事があるならスクランブル交差点に行くといい。話し声とクラクションとディスプレイから流れる効果音や流行の音楽が思考回路を塗りつぶしてくれる。雨なんか降っていればさらにいい。

 腐臭がする。特になにが腐っているわけではない。恐らくは。臭いが鼻の奥にこびりついている。
「ただの都市伝説でしょ?」
「でも見たんだってよ」
 雨の臭いとは別だ。雨に誘発されているのかもしれないけれど。さっきすれ違った女の香水だとか、中年男の加齢臭だとか、そういうものとも違う。ある意味ではそういうものすべてなのかもしれない。
「あとは浮浪者の溜まり場になってるとか」
「どっちにしろ危ないよね」
「ねえ、なんで放っておくんだろ」
「ほんとだよねえ」
 白装束のガスマスク集団が軍隊のように行進していた。フライドポテトの臭いもあっという間に街の腐臭に吸い込まれる。サイレンが切り取った跡に制汗剤のCMが流れ込む。ビニールの上で水滴が小さく跳ねる音を聞いて「アッハハ、マジウケル!」軒下で誰かが傘を開いた。

 臭いだ。
 嗅覚の話をしよう。たった今必要なのは聴覚でも視覚でもなくて嗅覚だ。腐臭はどこから発生しているのか。
「早く取り壊しちゃえばいいのにさ」
「そうだね」
 たまごの臭いがする。腐ったたまごのきつい臭い。でも鼻にこびりついた腐臭はそれとも違う。

 この腐臭を辿ったところに都市伝説があると、目の前の彼女たちに言ったらどんな顔をするのだろう。



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