頭の中を埋め尽くすスノーフレークの花が霞んでゆくのだという。
「きれいな白が、みずみずしい緑が、灰色の煙に犯されていくの。私は無感情でそれを眺めていたわ。だからもうここには居られないと思った。頭の中がただ濁るんだもの」
「それじゃあ君はどこへ行くんだ。どうせ行くあても無いくせに」
「スノーフレークの花があればどこに行ったって平気よ。ここよりもうつくしい場所ならどこでも、ね」
 そんな場所ありはしないよ、と僕が言えば彼女は笑って花びらを撒き散らした。

「私はうつくしい場所を探していただけよ、他に何も望んじゃいない」
「だから僕は言ったじゃないか」
「知らないわ、そんなこと。そんなことは関係ないのよ」
 真っ白な部屋にスノーフレークの花びらを敷き詰めて、彼女は立ち尽くしていた。
「この花びらだけを食べて生きていくの。それが私の誇りよ。灰色なんかに邪魔されない、うつくしい色だけ」
「灰色なんてはじめからありはしないのに」
「それはあなたが既に濁っているからよ」
「だといいね」
 彼女に白と緑を濁すのは灰色だなんて思い込ませたのは誰だろう。彼女自身だとしたら、なんとも皮肉な話だ。足元に広がる色は何色?

「私は幼虫になりたい。何も知らずにただ葉を食む醜い幼虫。そして蛹にさえなれず、鳥に食われて一生を終えてしまいたい。うつくしい蝶の姿なんて夢にも見ずに終えてしまいたい」
 白い肌の下を赤い血液が這いずり回って彼女は呼吸をする。ほらね、君は赤い。
「もしも蝶になれるなら、真っ白な何もない部屋で、自身の翅の色すら知らずに飛んでみたい。何も知らずに飛んでみたい」
 彼女は哀れなネオテニー。





純潔
120422

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お題:あの花に捧ぐ
魚の耳」さんに提出。



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