今年も見つけてしまった。花屋から一輪のカーネーションを持って出てきたあの女。去年は目が合って曖昧に微笑んだと思えば幻術で消えた。一昨年は俺に気付かずそのまま進んで行った。それより前は覚えていない。
「なにやってんらびょん」
 だから今年は駆け寄って捕まえた。驚いたような、諦めたようなよく分からない表情で俺を見ている。
「んなもん買ってどうすんら」
「あげるのよ」
「誰に」
「母さんに」
「……毎年毎年、意味分かんねえびょん」
「分からなくていい」
 腕を掴んでいた感触が無くなり、あ、と思った瞬間、女は霧のようにさああと消えてしまった。手を脱力させれば自然に舌打ちが出た。これだからあの女は嫌いだ。

「でも、自分を産んだ人であることに変わりはないでしょう?」
 去年の話だ。骸さんはクロームらしいですね、と笑っていた。M.Mはオメデタイ思考回路だこと、なんて呆れていた。柿ピーはなにも言わなかった。
 俺はなぜか不快だった。それを話せば、骸さんに「親の顔を覚えている人間にしか分からない感覚なのかもしれません」と諭された。
「じゃあ骸さんも分からないんれすか。骸さんにも分からないことがあるんれすか」
「同じ感情を抱くことは出来ませんが、理解することは出来ます」
「……よく分かんないれす」
 クフフ、と笑って彼はそれ以上なにも言わなかった。

「犬」
 後ろから聞こえた声に振り向くと、消えたはずの女が立っていた。
「あげる」
 その言葉を飲み込みきらないうちに、女は俺の手を取りカーネーションを握らせる。
「だから、そんな顔しないで」
 突き返す間もなくさああと、今度こそ本当に消えてしまった。困ったような、でもすこし可笑しそうな、そんな顔だった。拍子抜けした俺はしばらく阿呆みたいに立ち尽くしていた。

 迷子にでもなった気分だ。手の中のカーネーションが、珍しそうにこっちを見ている。





母さんあなたはどこにいますか
120528 城島と髑髏



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