造花って枯れるんだよ、知ってた? 僕がそう言うと彼は呆れた顔でいきなりなんですか、と返す。
 その問いは僕が何十何百何千回と彼に投げかけたもので、彼の答えも何十何百何千回と僕に戻ってきたものだった。それでもやっぱり僕は同じことを尋ねる。
「要するに捉え方の問題ってことだよ。わかる?」
「正直に答えると、わかりません。わかる気もしません」
「正チャンは相変わらずつれないなあ」
 切って貼ったように全く同じやり取りを僕らは飽きもせず続けている。彼にとってはすべてたった一度のやり取りなんだけど。寧ろ自ら望んで繰り返しているのは僕だ。きっと一度でも違う回答が返ってきたらいいと願っているんだろう。だけどそんなことは有り得ないと、僕自身が一番理解している。ほんとうに皮肉な話だって、君も思うだろ、正チャン。
「強いて言えば――」
 彼はテーブルの上にあったカップを持ち上げると、いつも通り苦いコーヒーを飲んでひとつ息を吐き僕と視線を合わせる。そんなところまで毎回同じなんだね、君は。
「造花が枯れるというなら、それは自然に起こる現象ではないと思いますよ。人為的な何かを加えないと。単純な風化を指すならそりゃあすべての物体は枯れるんでしょうけど、でもいま百蘭サンが言いたいこととは違いますよね?」
「うん、そうだね」
「じゃあ、枯らすも生かすもあなた次第ってことですよ。枯れないように努力すればいい。あなたが生かせばいいと、僕は思いますけど」
 うん、知ってる。君は何十何百何千回もその答えを僕に告げているから。一字一句違わない。だけど他の人だとそうもいかないって、知ってるかい? みんな差はあれどだいたい変わるんだ。なのに君は絶対に変わらない。僕の突拍子もない質問にいつでも真面目に答えて、尚且つどんな状況でも同じ考え方をする。正チャンはどこまでも正チャンなんだ。僕は結構、君のそういうところ好きなんだよ。別に変な意味じゃなくてさ。知ってた? ほんとうのほんとうは君のその不変に安心しているのかもしれないね。でもさ、
「努力だけじゃどうにもならないことだって、この世にはたくさんあるんだよ?」
「はは、それを言ったら、おしまいですよ」
 ほらね、だからさ、おしまいなんだよ。造花を枯らすのは僕じゃない。いつでも同じなんだって、知ってるくせに、ねえ? 正チャン。





皮肉な話さ
120226 百蘭と入江(未来編前)



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