風が吹いた。11月の冷たい風はまた、黄色いそれを絡め取りどこかへ飛んでいった。脂肪のかたまりのような黄色くぶよぶよとしたそれは、既に洗剤の役割を果たす初秋のひんやりとした空気によって私の体から浮かび上がっている。それを清らかな白い風が取り去っていくのだ。銀杏の葉がひゅうう、と舞う。
 街を埋め尽くしていたオレンジと黒が一夜にして姿を消し、赤と緑が辺りを侵食するようになってしばらくが経つ。11月に色は無い。だから白い風も、次に待つ赤と緑の色も透けてしまう。10月を追いやるのは12月であって、11月ではないのだ。
 私は歩道に散らばる銀杏の葉を踏みしめながら歩く。透明な11月に黄色はよく映える。しかしこれも11月が生み出したものではない。9月や10月が分解した葉緑素の忘れ物。白い風に乗って銀杏の葉は舞い上がる。白い風だって実のところ、12月から吹いている。
 冬になれば立方体の形をした冷気が、脂肪の削ぎ落とされた体を際立たせる。くっきりと輪郭を空間に刻みつける。人々が冬に物寂しさや心細さを覚えるのはきっとそのせいだろう。冷たさはあまりに正直すぎる。だが私はその純粋さが好きだった。
 11月は無垢だ。それ故に、浮かび上がらせた黄色や赤や緑に埋もれてしまう。そして気付いた時には同化してしまうような、あまりに柔らかな無垢。
 12月は純粋な、確固たる意思でもって黄色を吹き飛ばし、赤と緑を跳ね返す。そして色を浮かび上がらせる。どこまでも純粋で強固な拒絶をする白は、透明とはまた別の、無垢なのだ。
 埋もれた透明を掬い上げてコートのポケットにしまった。黄色い葉がまた一枚落ちる。銀杏の樹が葉を全て落としきって丸裸になるのと、私が冬支度をすっかり終えるのとでは、どちらが先だろう。急かすような白い風がひゅうう、と私の横をすり抜けた。





透明の季節
120117

―――――――――――

二周年企画で書いた「落葉樹」を手直しして、
魚の耳」さんに提出させていただきました。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -