東から吹く風がさらさらと私の髪をなでて、それがとてもすきだと思った。ぷわぷわと浮かぶパステルカラーにつられて私のこころもぷかぷかと游いでいる。綿菓子のようなきもちでそっと微笑めば、彼はどうかした? と私に尋ねる。
「なんでもないわ」
しなやかなこころで私は春を掬い上げた。
透き通ったまんまるの空気を吸い込めば、指紋ひとつ無い、よく磨かれたガラスにそっと触れたようなきもちがした。それはなんとも誇らしくて、なんとも気恥ずかしい。頬に手を添えればほんのりと熱を持っている。色付いたそれを彼がかわいいね、と言うから私はもっと照れくさい気分でありがとう、と返した。
やわらかなあたたかさに包まれて、私は満足していた。ひかりが私の周りで無邪気に遊んでいる。両手を広げるとすぐにかれらは私の胸に集まってくる。そのくすぐったいような気分もなにもかも閉じ込めて、このまま溶けるように眠ってしまいたいと私は思う。きっとそれをしあわせと呼ぶのだ。私を呼ぶ彼の声が聞こえる。
足元からさああと風になれば、彼がおどろいたような表情をしていたので私は思わずにいっとわらった。するとなぜか彼はとても悲しそうな顔をしたので、風になった私はさくら色でやさしく彼を抱きしめた。
パステルカラーのまぼろし
120108