サーチライトが黒い空に突き刺さっている。俺はまどろみの中でそれを眺めていた。雷でも鳴りそうな雲だ。サーチライトは冷たい。光の中に一瞬、飛行機の白い機体が浮かんだけれどすぐに消えた。俺はまた深い眠りの中に落ちる。廃墟はぐにゃりとした温度で満ちている。

 時間は分からない。雲に覆われた街は水に浸かっているような色をしていた。寝息だけが聞こえる。街は喩えでもなんでもなく、眠っている。路上に倒れていた男がもぞもぞと動いて、思い出したように顔を上げたがすぐひび割れたアスファルトへ頭を預けた。信号は沈黙している。中途半端な位置で止まっている車をちらりと見れば、ハンドルに女が身を預けていた。
 重い足を引きずりながら水色の街を歩く。まだ頭はぼんやりとしている。
 白い少女を見つけたのはそのときだった。俯く彼女は瓦礫の上に腰掛けて、ぷらぷらと足を遊ばせていた。首をもたげたまま顔がこちらを向く。それに手を伸ばしたところで強い眠気が俺を襲った。
 頭を撫でられている感覚で目が覚める。瞼を持ち上げればあの少女の顔があった。
「君は眠らないのか」
「眠らない」
 瞼の支配権は街が所有している。俺に抗う術は無い。

 この街で一番高い建物を知っているか、と彼女は尋ねた。
「街外れの監視塔だ」
「その次は?」
「この先のビル」
 問いの意図を聞く前に意識はブラックアウトする。

 街は眠っている。街はまどろみの中でゆるやかに荒廃していた。一瞬の覚醒もすぐ街のまどろみに絡めとられてしまう。彼女が軽やかに飛び石の上を通る。

 雷でも鳴りそうな雲だ。静かな街の上空を冷たい光線が這いずり回っている。鉄の扉が大きな音をたてて閉まった。
「眠たくなるほど退屈だったの」
 彼女が両手を広げる。白い彼女はなにかに似ていると思った。あれは……確か……。誰もいない屋上で、熱に浮かれたような頭が記憶を探る。
 ああ、飛行機だ。
 サーチライトが俺を照らした。





眠る街
111212



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