目を開けた。
 四角い暗闇の中、スクリーンに映し出されたロードムービーの光が赤い座席を照らしている。観客は他に誰も居ない。もしかしたら居るのかもしれない。座席に隠れて。もしくは僕の死角に。そんなことはどうでもいい。
 そのロードムービーに人影は無い。ただ淡々と景色だけが流れていく。目的地がどこなのかは覚えていない。そもそも旅人が男なのか女なのか、若者なのか老人なのか、それすら忘れた。
 フィルムの回る音が映写室から聞こえてくる。そういえばスピーカーからは台詞も効果音も聞こえてこない。温度の無い景色がただ流れる。
 その酷く退屈なロードムービーをしばらく眺めていたが、じきに飽きた。固い座席に座り直してまた目を閉じる。映画館の出口だって僕は知らない。





無声映画
110911



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