「外さないの」
「これ?」
「うん」
真夏の太陽を受けて、彼女のみみたぶできらりと光るピアス。
「危ねえだろ」
「平気よ」
彼女はプールサイドに腰掛けて、きらきらと光る水面を蹴っている。蹴った水しぶきがまたきらきらと光る。
基本的に持ち物は黒しか選ばない。いつだか彼女に、カラスみたいね、と言われたこともある。
鋭い日差しのお陰で焼けそうだったので、タオルを頭に被った。だが黒いタオルは熱を遮るどころか逆に吸収して使い物にならない。こんな日ばかりは、身の回りを黒一色で固めていることを後悔した。
ざぱん、と彼女がプールに飛び込む。
プールが波打ってきらきらと眩しい。
彼女のピアスもきらりと光る。
「入らないの?」
「うん」
「そ」
彼女は自由に泳ぎまわっている。
しなやかな腕が水を切る。彼女が動く度に波やら水しぶきやらがきらきらと光るので、眩しくてしょうがない。
「なあ」
「んー?」
「俺帰っていい?」
「なんでよ」
「飽きた」
「私は飽きてない」
そう言って彼女は水中に潜る。すぐに髪をぺったりと張り付けた頭が浮かんでくる。みみたぶのピアスがまたきらりと光った。
さっきから無駄に光っていると感じるのは気のせいだろうか。そうではない気がする。ではこんな日差しが強くて眩しい日に、わざわざ光をよく反射させるピアスを選んだというのか。しかもご丁寧に、ピアスをつけたままでプールにも入って。
カア。
「あら、カラス」
彼女の視線を辿ると、そこに一羽のカラスがいた。
カア。
何故だかカラスはこちらをじっと見つめている。
「どうしたのかしら」
「……光ってるからじゃねえの」
「なにが?」
「プール、とか?」
きょとん、としていた彼女がふふ、と笑った。
「やっぱりね」
「やっぱり?」
「うん」
誇らしげに彼女が頷く。みみたぶのピアスがきらりと光る。彼女と目が合う。
「やっぱり、カラスはきらきら光る物が好きなんだなあと思って」
きらきらと笑う。
咄嗟にカラスを睨むと、奴はカア、とひとつ鳴いて飛び去っていった。
明日は真っ白なタオルを買いに行こう、と心に決めた。
カラスとピアス
110805