青い。

 あ、が水面に逃げた。
 お、が水面に逃げた。
 い、が水面に逃げた。
 音は目に見える透明な塊になって私の口からこぼれ、水面に逃げていった。

 それはそれはきれいな青だった。藍でも蒼でもなく、きれいな青。視界いっぱいに広がっている青は、恐ろしく静かで、冷たくて、柔らかい青。それがあまりにきれいだったから、思わず青い、と声に出した。もう見えなくなってしまった音の塊は、今頃水面に出ただろうか。

 目を閉じる。水面を思い浮かべる。
 声が水中から飛び出した。それはまるい。それはきれいな球体。それは水面に浮遊しない。それは空中に分散しない。それは真っ直ぐに進む。ずんずんと。しかしそれは急がない。焦らない。遅すぎもしない。ただひたすらに、真っ直ぐ進む。対流圏を抜ける。成層圏を抜ける。中間圏を抜ける。熱圏を抜ける。つまり、大気圏を飛び出す。

 透明なまるい塊が、はじけた。
 あ、と、
 お、と、
 い、が、はじけた。

 青い、が、はじけた。

 目を開ける。
 それは青い。
 私はまた口を開く。

 さあ、おかえり。





青い
110722




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