「ショッキングピンクが溶けるんだ。どろりどろりと。ピンク色のビルが溶ける。ピンク色の車が溶ける。ピンク色の人々が溶ける。どろどろ、どろどろ、どろどろどろり」
「へえ」
「ピンク色の液体がアスファルトの上に広がっていくんだ。もちろんアスファルトもショッキングピンクで、どろどろ溶ける。いちご味のチョコレートみたいに。着色料をふんだんに使ったいちご味のチョコレート。どろどろになって、ビルとか車とか人々は、アスファルトの中に飲み込まれていくんだ」
「それは大変」
「大変も大変、みんな飲み込まれる。それで僕は一歩足を踏み出したら、その足がアスファルトに沈んでしまったんだ。ずぶ、って。だから反対の足で体重を支えようとしたら、反対の足もいちご味のチョコレートに取られちゃってさ。ずぶずぶ、って。ずぶずぶ、ずぶずぶ、僕は沈んでいくんだ。それからよろけてアスファルトに手をついたらさ、驚いちゃったよ」
「なにがあったの?」
「よくぞ聞いてくれたね、そう、そのアスファルトについた僕の手が、おかしな色をしていたんだ! どんな色だか分かるかい?」
「ショッキングピンク?」
「残念ながら、違う。正解はエイリアンのようなライトグリーン! チカチカするライトグリーンになってしまった僕の手が、ショッキングピンクのアスファルトに沈んでいくんだ、ずぶずぶずぶって。ああこれはもう抜け出せないなあ、と思ったらさ、僕はおかしなことに気付いたんだ」
「おかしなこと?」
「そう、おかしなこと。僕の前庭神経が、おかしい、って教えてくれたんだ。君のからだは平衡を保っていないよ、って。前のめりになっているよ、って。だから僕はおかしいな、と思って顔を上げてみたんだ。そうしたら、本当に驚いたよ! いつの間にか目の前に、とっても大きくて丸い真っ黒なそれが出現していて、しかも僕たちはそれに向かって流れていたんだ!」
「あら」
「それはなんでもかんでも、流れてくるものは全て飲み込んでいたんだ。ショッキングピンクのアスファルトはもちろん、アスファルトに沈んでいるビルや車や人々も。それらは全てショッキングピンクだ。着色料まみれの、いちご味のチョコレート。だから僕は危ないよ、って言ったんだ。からだに悪そうなものを、そんなにたくさん食べちゃいけないよ、って」
「大きくて丸い真っ黒なそれに?」
「そう。大きくて丸い真っ黒なそれに、危ないよって。からだに悪いよって。そうしたら、それはなんて言ったと思う? 僕の目の前に来て、こう言ったんだ」
「『じゃあライトグリーンはどんな味?』」
「そう!」
あっ。

一度閉じられた大きくて丸い真っ黒な口が少し開いて、熟れた苺のように真っ赤な唇を舌で嘗め回した。

べろり。





お味はいかが
110714




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