やや恰幅の良すぎる体を上質なスーツで包み、自己主張の激しすぎる宝石たちがぎらぎらと煌く指輪を嵌めた手に葉巻を持ち、その口元に立派な髭を蓄えたマモン氏はこう語った。
「さあ諸君、それでは盛大なフィナーレを始めよう。物語というものは常にハッピーエンドでなくてはならない。たとえそれが喜劇であろうが悲劇であろうが、だ。舞台でどんなに役者が笑い転げようが泣き喚こうが終幕は幸福であるべきだ。カーテンコールは盛大な拍手で飾られるべきなのだ。その為に役者たちは日々の鍛練を重ねている。そんな彼らはよほどの事が起きても、いや、よほどの事が起きようが舞台を失敗させることは無い。舞台装置が正しく作動しなくとも、突然照明が落ちたり音響が途切れたりしようとも、はたまた主役が直前に謎の失踪を遂げたとしても、彼らは完璧な舞台を作り上げるのだ。そして全ての演技が終わった時、観客たちは感動の涙を流し、歓喜の声を上げ、賞賛の言葉と共に花束を舞台へ投げるのだ・・・ああ、それでは仮に投げられるものがガラス瓶になってしまうような事態が起きたとしよう―――それはどんな障害をもってしても起こり得ない事態なのだが―――その場合でも、やはり物語は大団円を迎えるのだ。何故なら物語の結末は物語が始まったと同時に決まっている。寧ろ結末は物語が始まるずっと前から決まっているのだ。たとえ観客が怒り狂い暴れようが、役者がガラス瓶で頭を殴打されようが、乱闘を止めに入った係員が気絶しようが、それは意味を成さない。ありとあらゆる障害は障害の意味を成さない。何故なら物語は常に大団円を迎えるからである。そこに例外は存在しない。物語が物語である限り。泣いても笑っても怒り狂っても、観客たちに与えられるものは変わらないのだから。さて終演に笑うのは誰なのか、それは言及するまでもないだろう。」





饒舌なるマモン氏の大団円
110619




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