「サー・ガウェイン・・・・」
手に持っている名刺をまじまじと見つめながら書かれている名前を読み上げた。やっぱり外国人の方なのかしら?でも、それにしては日本人かと思うぐらい日本語ペラペラだったなー・・・・じゃなくて!どうしよう!このお金!私は、茶封筒にしまったお金に頭を悩ませた。やはり今朝のタクシーの運賃は2000円ほどしかかからず、余った8000円をいつでも返せるようにと茶封筒にしまったまではいいが、一体どうやって返せばいいのか悩んでいた。こんな大金が手元にあるだなんてそれだけでドキドキが止まらない。できれば早急に返したい。明日も電車で会えるならいいが、会えなかったらどうしよう・・・・やっぱりその前にこの名刺に書かれているメールアドレスに連絡するべきなんだろうか。でも、いきなり連絡なんかしたら迷惑かなー?うーん・・・・


「なーに悩んでるのよ。ん?名刺?ナンパでもされたの?」


「あ!」
急に手に持っていた名刺を奪われ思わず驚きの声を上げた。


「サーガウェイン・・・・外国人の人?・・・・えっ!キャメロット銀行って書かれてるじゃん!どーしたのこれ!マジでナンパされたの?」


「ナンパじゃないから、返して」
名刺を奪った友人の手から名刺を奪い返して制服のポケットにしまった。


「じゃあ、なんで名刺なんて持ってるのよ」


「それは・・・・」
私は今日の朝に起きた出来事を詳細に説明し、お金をどうすればいいか悩んでいることを打ち明ければ、「へー、良い男じゃん!」と言いながら何やら考えるような仕草をしていた。


「今日の会議中ずっと浮かない顔してたからなんか嫌なことでもあったのかな?って心配してたけど、まさかそんなことがあったなんてね」


「なんか良いことしたはずなのに、結果的にすごい悪いことした気がしちゃって、それで今日ずっと落ち込んでたの。もし、拾ったのが大人の人だったらもっと良い対処できたんじゃないかなって思って」


「別に気にしなくていいじゃない。相手もどうぞもらってくださいって言ってたんでしょ?素直にもらっちゃったら?」


「そんなわけにはいかないでしょ」


「じゃあ、そこに書かれてる連絡先に連絡すればいいのに」


「そんな簡単に言わないでよ。すごく素敵な人だったし、社交辞令で連絡くださいって言っただけだろうし、それなのに学生の私が調子に乗って連絡なんてしちゃったら困らせちゃうだけだよ・・・・」
自分で言いながら落ち込んだ私は机に顔を付けて倒れこんだ。もし連絡して、うわっ。マジで連絡してきた。って思われたら落ち込んで立ち直れる気がしない。


「気にしすぎだってば!まぁ、いいわ。帰りましょう。早く職員室に生徒会室の鍵も返さなきゃいけないし」


「うん」
すぐに立ち上がって鞄を手に取った私は友人の後を追って生徒会室を出た。私と友人の琳華(りんか)ちゃんは1年生の時から書記と会計として生徒会に入っていて2年生になってからも繰り上げでそのまま生徒会に残っている。去年の生徒会長がすごく怖い人で終始生徒会全体がピリピリしていて居心地が悪かったから2年生になったら辞めようと考えていたが、学園祭後に行われた生徒会長・副会長選挙で新しく生徒会長に選ばれた先輩が生徒会外から来たからなのか、元々そういう性格だからなのか、とても優しくて明るい人で一気に生徒会全体が明るく和やかな雰囲気に変わった。しっかりしているようで抜けている所も多いが、新しく生徒会外から選ばれた副会長のマシュ先輩のおかげで会長はたまに居眠りをして怒られながらもしっかり仕事をこなしている。あー、来年も先輩たちがいてくれたらいいのに・・・・


「おまたせ。鍵返してきたよ。・・・・また、考え事?」


「うん。藤丸先輩とマシュ先輩が生徒会に入ってくれてよかったなって思って」


「ほんとそうだよね。去年はずっと会長の怒号が飛び交ってて居心地すごい悪かったもんね。藤丸先輩いい意味で緩いし今はすごく仕事してて楽しい」


「私も」
靴を履き替えて玄関を出れば、門の前で女の子たちが何かを遠目で見ながらキャーキャー言っている姿が目に入った。


「何あれ。芸能人でもいるの?」


「さぁ?」
「手振られちゃった!」と興奮ぎみに一緒にいる子とはしゃいでいる女の子たちを横目に一体誰がいるのだろう?と興味本位で覗き見ればそこには見知った顔があった。


「あ!」


「こんばんわ」


「今朝の・・・・」


「はい!その節は大変お世話になりました。その後、連絡を頂けなかったので、無事に学校に辿り着けたかが心配で、ご迷惑かと思ったのですが学校まで来てしまいました」


「あ、すみません。いきなり連絡をするのは迷惑かと思って・・・・」
「ほら、言わんこっちゃない」と小声で私に伝えながら背中を叩いた友人に申し訳ない顔を見せた。こんな学校まで来させてしまうぐらいなら悩まずにさっさと一言連絡をすればよかったな。


「迷惑だなんてとんでもない。貴女からでしたら24時間365日いつでも大歓迎です!」
まぶしい笑顔を私に見せながらも力説する彼を見て、また気を使わせてしまったと思い、「はぁ・・・・」と力のない返事をしながらもあることを思い出した。


「あ!ちょうどよかったお金を・・・・」


「はい!こちらもちょうどよかったです。お腹空いていませんか?」
お金を返そうと鞄から茶封筒を取り出そうとすれば、とてもニコニコした顔でガウェインさんが私を見つめてきた。


「え、空いてます・・・けど・・・・」
問いかけに驚きしどろもどろになりながら返答すれば、ガウェインさんは更に嬉しそうな表情を浮かべた。


「よかった!では、これから一緒に夕食を食べに行きませんか?」


「えっ?」
突然のお誘いに戸惑った私は口をあんぐりと開けたまま固まった。


「ぜひ、今日のお礼もしたいので。よければ御友人の方も一緒にいかがですか?」


「・・・・いえ、お二人でごゆっくり!じゃあ、名無しまた明日ね!」


「ちょ、ちょっと!」
あっという間に私を置き去りにして去っていた友人の姿を唖然と固まりながら見ていれば後ろから「では」と声をかけられた。


「あちらのパーキングに車を停めておりますので、参りましょう」


「・・・・・はい」
完全に断れる雰囲気ではないしエスコートするように差し出された手を無視することもできず困った顔のままその手に私の手を重ねればガウェインさんは嬉しそうに私の手を握り締めた。