「なぁ、いつまで落ち込んでるんだよ」


「はぁ・・・・こんなつもりじゃ・・・・」
目の前にせっかく美味しそうなご飯たくさん並んでいるというのに、それでも落ち込み続けるエレシュキガルに、今度は名無がため息をついた。


「エレシュキガル」


「はぁ・・・・何かしら?」
両手で顔を覆いながら、エレシュキガルは名無の問いかけに返事をした。


「お前にしか頼めない重要な任務があるんだが・・・・」


「私にしか頼めない重要な任務?」
エレシュキガルはすぐに顔を覆っていた両手を外し、真剣な表情で名無のことを見つめた。


「あぁ、レイシフトから戻ったら調査の報告書を提出するのは知ってるよな?」


「えぇ、貴方がいつも書いてるやつよね?」
よく、夜遅くにカルデア職員たちが共同で使用している事務作業スペースで半分寝ながらも一生懸命文字を入力する名無の姿を見かけていたエレシュキガルは報告書の存在を知っていた。


「そうだ。その中に、ここで食したもののことを書かなきゃいけない欄があるんだ」


「えっ、そうなの?」


「あぁ。今回も、もちろんその欄にここで食べたもののことを書かなきゃいけないんだ。だけど、俺は、今日、腹が痛くて食べれそうにない」


「お腹が痛いの?!た、大変!何か変なものでも食べたのかしら?」
エレシュキガルは慌てて立ち上がり、名無の方へ行こうとしたが、名無がすぐに片手を前に出してそれを止めた。


「大丈夫だ。よくあることだから、すぐに治る。だけど、今目の前にあるこの美味しそうな料理をどうも食べれそうにない・・・・そこで、エレシュキガル。君だけが頼りだ」


「・・・・わかったのだわ。私が貴方の代わりにこれを食べて、味を教えればいいのね」
じっと自分のことを真剣な表情で見つめる名無に応えるようにエレシュキガルは目の前に置いてある料理を一瞥した後大きく頷いた。


「あぁ、頼めるか?」


「えぇ、もちろん。冥界の女神である私に不可能はないのだわ」


「じゃあ、ここは頼んだぞ。俺は、この町に魔力リソースの反応がないか調べてくる」


「まかせてちょうだい」
名無から重要な任務を任されたエレシュキガルは、よし、っと意気込み、目の前にある料理を一つずつ食べていった。どれもカルデアではまだ食べたことがないものばかりで、こんなものがあるのね。と、真面目な彼女は、一品一品、食べたものについて後々詳しく書けるように。と真剣に味わっていたのであった。・・・・・それが嘘の任務だとも知らずに。


ちょうど、全品食べ終わった頃、「食べ終わったか?」と名無が戻ってきた。


「えぇ、ばっちりよ。完璧に任務をこなしてみせたのだわ」
先程の落ち込みはどこへやら?というぐらい、明るく、どこか誇らし気な表情のエレシュキガルは、自分の胸元に手を置きながら、うんうん。と頷いていた。


「それは、助かった。こっちの調査も終わった。やはり、この町にも魔力リソースの反応はなかった。これだけ広範囲調べても確認できなかったってことは、この微小特異点にはないだろうな。よし、帰るぞ」


「え、もう帰るのかしら?」


「あぁ、調査はもう終わったし、俺らが戻らないと、ずっとみんなが休めないからな」


「えぇ、そうね。戻りましょうか」
エレシュキガルはもっと名無と二人でこの町を楽しみたかったが、自分たちのバイタル等を確認し続けてくれている職員たちの仕事が終わらないことに気づき、すぐに首を縦に振った。


町から出た2人はすぐにカルデアと通信を繋ぎ、この微小特異点には魔力リソースが存在しなかったことを報告し、その後すぐにカルデアに戻ってきた。ダヴィンチたちから労いの言葉をかけられた後、名無とエレシュキガルは、自室に戻るために廊下を歩いていた。


「そういえば、報告書に今日食べた料理の感想を書かないといけないのよね?」


「えっ?あぁ・・・・そうだったな」
ふと、エレシュキガルに話しかけられた言葉を聞いて、一瞬、何のことだ?と首を傾げた名無だったが、すぐに自分の発言を思い出した。


「そうね、全体的にどの料理も美味しかったのだけれども、特に、緑の葉が入っていた魚を煮た料理がとても」
自分が先程食べた料理を思い出しながらエレシュキガルは感想を口にしたが、名無はすぐにそれを片手で制した。


「料理の感想はもう大丈夫だ」


「えっ、もういいの?」
まだ一つしか感想言ってないのに、と、エレシュキガルが驚いていると、名無は、あー、えっと・・・・と言いながら視線をさ迷わせた。


「なんか、前に行った特異点の時代と似た所だったから、今回はいい。ってダヴィンチが言ってた」


「そうなの・・・・。それは残念だったのだわ」
せっかく名無の役に立てると思っていたエレシュキガルは、また落ち込みそうになっていたが、名無がすぐに何かを思い出したように「あっ!」と声を出した。


「忘れるところだった・・・・。今日は付き合ってくれてありがとな」
名無はレイシフト先から物を持って帰ってくる時に使用する専用の袋から何かをガサガサ取り出したかと思うと、そこから取り出したものを「はい」とエレシュキガルに渡した。


「えっ、これって・・・・・」


「装飾品の店でこれ見てたんだろ?」
名無から差し出されたものは、さっきエレシュキガルが装飾品のお店で「綺麗な髪飾り」と言って見つめていたものだった。


「えっ、なんで知ってるの?」


「さっき、歩いてたら、そこの店の人に声かけられてエレシュキガルがこれを見てたって言ってたから」
魔力リソースの調査のために、市場の道を歩いていると、急に「さっきはよくやった!」と声をかけられて、その後、エレシュキガルがその髪飾りを見ていた。という情報を聞き、名無は今日のお礼に。と購入して持ち帰っていたのだった。


「そうだったのね。とっても嬉しいのだわ」
エレシュキガルは手に渡された髪飾りを大事に両手で掴み目の前でキラキラと輝くそれを嬉しそうな表情で見つめた。


「でも、なんでそれだったんだ?他にも綺麗なのたくさんあっただろ」


「ふふっ、この金色のガラス玉が貴方の瞳と同じ色をしていたから。ほら、綺麗でしょ?」
嬉しそうに髪飾りを見つめながら、何も考えずに素直に名無の問いに答えたエレシュキガルは、にこっと笑って名無の顔を見た瞬間、「あっ」と気づき、「い、今のは違うの!その!えっと!」と大慌した。


「こんなことぐらいでいちいち慌てるなよ・・・・。昔は俺の瞳この色じゃなかったはずなんだけどな・・・・。それに、エレシュキガルだって、女神の力を使う時に同じ色になるだろ」
「あぁ、そういえば、イシュタルもか・・・・」とその後にぼそっとつぶやいた名無の言葉は、もはや夢の世界へと旅立ったエレシュキガルの耳には入っていなかった。


「次は迷子になるんじゃねぇぞ。女神様」
ぼーっとしているエレシュキガルの頭に手を置きながらふっと笑った名無の言葉を聞いて、半分空想の世界へ旅立とうとしていたエレシュキガルの脳はすぐに活動を再開させた。


「・・・・・次?」


「あぁ、もう一緒に来ないのか?」


「また一緒に行っていいのかしら?」


「あぁ。じゃあな。それ無くすんじゃねぇぞ」
そう言って片手を上げた名無はその場を去って行った。


「あ、エレシュキガルさんおかえりな・・・・エレシュキガルさん?!エレシュキガルさん!先輩!エレシュキガルさんが!!」
その後、廊下で気を失いながら立っているエレシュキガルを発見したマシュはすぐに立香に助けを求めた。


【微小特異点探索隊 第一微小特異点探索終了】