「アーチャーはなんで綾瀬さんを狙ったんだろう」


「そんなのマスターだからに決まってるだろ」


「綾瀬さんのサーヴァントはもういないのに?」
自分のサーヴァントがいなければ今後聖杯戦争で戦っていくのはほぼ無理だ。それなら、サーヴァントがいない綾瀬さんを狙うメリット等ないはずなのに、さっきのアーチャーは綾瀬さんを狙ったのは何故なんだろう。たまたまサーヴァントがいないことを知らずに襲っただけ?


「本来自分のサーヴァントがいなくなった時点でマスターの手からは令呪が消えんだよ。色々と例外はあるけどな」


「そうなんだ。てっきりみんな聖杯戦争が終わるまで消えないんだと思ってた。そういえば綾瀬さんの手にはまだ令呪が残ってたもんね」


「あぁ。あいつたしか一族で魔術師だって言ってたし、恐らくその例外に当てはまったんだろ。まぁ、そのせいでまだサーヴァントを持ってるマスターだと勘違いされて狙われたみてぇだけどな」
そうか、そのルールを知っている者であれば、特例を除いて令呪を持っているマスターにはまだサーヴァントがいると思って狙うわけか。令呪がある以上マスターがいないサーヴァントと再契約ができるという点ではその特例は良いかもしれないけど、その気がないマスターにとっては厄介でしかないだろう。


「でも、いくらサーヴァントって言ってもあんなに遠くから令呪なんて見えるものなの?だいぶ遠くから攻撃してきたように見えたけど」
さっきアーチャーが私に攻撃してきた時に見えた光は随分と遠くから飛んできたように見えた。学校の周りは森で囲まれていて少し離れた場所も住宅街になっているため近辺に高い建物なんてない。恐らく少なく見積もっても5kmは離れていただろう。


「普通のサーヴァントでも当たり前に人間よりは視力が良いが、アーチャークラスは特別だ。あいつらは数キロ先の小石も視えるだろうから遠く離れた令呪なんて簡単に視えるだろ」


「えー!そんな遠くまで視えるなんてどこから狙われてもおかしくないじゃない!」


「だからずっとそう言ってんだろ!俺から離れるなって」


「だって、そんな遠くから狙えるなんて思ってなかったんだもん。てっきり接近戦ばかりかと・・・・」
遠距離攻撃が可能なアーチャークラスと言っても一般的な弓の飛距離の限界から考えて、目視で確認できるぐらいの距離からじゃないと攻撃できないと思っていた。


「んなわけねぇだろ!いつどこで襲われてもおかしくねぇんだからな!お前はもっと危機感をっ!」


「ごめんなさい・・・・」
聖杯戦争を軽視して王逆くんの忠告を散々無視してきたことを今とても後悔している。さっきまで何事もなかったからよかったが、もし狙われたのが昨日非常階段で私が一人でお昼ご飯を食べてた時だったとしたら・・・・と考えたら、背筋がぞっとした。


「あー・・・・怒鳴って悪かった。お前もお前でちゃんと色々考えてんだもんな」
謝罪をした私を見て何故か王逆くんは気まずそうな顔をして頬を掻きながら明後日の方向を見つめた。


「王逆くん・・・・?」
そんな王逆くんの様子を不思議に思った私は彼の方を見つめながら首を傾げれば、私の視線に気づいてすぐに軽く微笑んだ表情を見せてくれた


「今日は突然のことでビックリしただろ、これからの戦争のことは俺が考えておくからもうゆっくり休んで寝ろ」


「あ、うん。ありがとう。じゃあ、また明日」
いつの間にか私の家の前に辿り着いたことに気づいて、王逆くんに挨拶をしながら私は家の中へと入っていった。てっきり家に到着する前にまた一緒に住むだのなんだのと言い出すかと思っていたがすんなり帰宅させてもらえてよかった。



*



制服から部屋着に着替え終えて少しだけベットの上に横になった。これからの聖杯戦争のことを私ももっと真剣に考えていかなければいけない。目撃者は殺さなければいけないルールがあるということは、学校のような一般人がたくさんいるような建物には日中帯襲いにくることはないだろうけど、今日アーチャーに狙われたということは少なくとも私と綾瀬さん2人のマスターがあの学校にいることは知られてしまっている。あんなに遠くから狙うこともできるのなら、きっと私が一人になった瞬間を狙って一矢放つことなど容易いだろう。今後は学校でなるべく王逆くんから離れないようにしなければいけないが、それはそれで次は人間たちが怖い・・・・


「はぁ・・・・・背に腹は変えられないか」
気分を変えるために晩御飯を作りながら明日のお弁当に入れるおかずの下ごしらえでもしてしまおうとキッチンへ向かった。明日王逆くんにお弁当を作っていったら食べてくれるだろうか?それなら、せっかく食べれるようになってくれた和食を中心に作ろう。と意気込んで食材を冷蔵庫から出してお弁当用に肉じゃがを作り、余った材料で夕飯にカレーを作り、ついでにカレーの上に載せようとトンカツを揚げた。テレビをつけてニュース番組でも見ながら食べようとリモコンを手に取った時に外から雨の音が聞えてきた。いつの間に雨が・・・・王逆くん雨に当たらずに帰れただろうか・・・・と心配していれば、窓の外から猫の鳴き声が聞えてきた。どこかの野良猫が家に迷い込んでしまったのだろうか?と気にせずにいたのだが、何故か威嚇するような猫の鳴き声と一緒に人の声が微かに聞えてきて、ん?と思った私は恐る恐る玄関に近づきドアを開けば、そこにいるはずのない人の姿があった。


「お、王逆くん?!なんでここに?!」
玄関前の段差に腰掛けて猫と戯れている王逆くんがいて驚きのあまり大きな声で話しかけてしまえば、その私の声に驚いて猫が逃げ出してしまった。


「お、どっか出かけるのか?付いてくぞ」
玄関から出てきた私を見ても大して驚きもしない王逆くんの姿をよく見れば肩口や足元が所々濡れていた。いつからここにいたの?まさか・・・・・


「王逆くんもしかして私が家に入ってからずっとここにいたの?」


「そうだけど」


「なんでそんな!」


「だって、一緒に住むっていってもお前嫌がるだろ。それならお前の家の前で守ってた方がいい」
なんという言い分だ。まさかこんな攻め方で来るとはさすがに思わなかった。たしかにいつものように一緒に住もうとストレートに言われた所で私がYESと答えることはないだろう。だけど・・・・・


「もう・・・・。こんなに雨に濡れて寒かったでしょ」
雨に濡れるのを構わず段差に座ったままの王逆くんの前にしゃがみこみ彼の手を両手で握りしめれば指先が冷たくなっていた。それを少しでも温めようと指全体を握り締めたまま親指でぐりぐりと擦れば王逆くんの体は一瞬びくっと動いた。あーやっぱり寒かったんだな。と思い、そのままぐりぐりと擦り続ければ、「あ、名無し」と少し戸惑った声が上から聞えてきて、ん?と上を見上げれば、王逆くんは眉間に皺を寄せながらも何故か少し口元が緩んでいた。暗くてよくわからないが少しだけ顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。


「お、お前まで濡れて風邪でもひいたらどうすんだよ!俺のことは気にしなくていいからお前は家に入ってろ」


「そんなわけにはいきません。ほら、立って」
私は王逆くんの手を握ったまま立ち上がり彼の手をひっぱった。


「なんだよ。帰れっていうのかよ。お前はいつサーヴァントに狙われるかわからねぇんだぞ」


「帰れなんて一言も言ってません。とりあえず、家の中に入って。こんな冷たい身体じゃ風邪ひいちゃう。すぐにお風呂沸かすから身体温めていって、お風呂から上がったら一緒にご飯も食べよう」


「・・・・・いいのかよ。お前、俺と一緒に家にいるのは」


「こんな所にずっと座ってられるよりは家の中にいてもらった方がずっといいです。気づくのが遅くなってごめんね。守ってくれてありがとう」
王逆くんの手を握り締めながら笑顔で感謝の気持ちを伝えれば一瞬驚いた顔をした後に片手で頭をガシガシ掻いて嬉しそうに笑った。


「ったく。俺のマスターはわがままだな」



*



「すぐにお湯が満杯になるからシャワーで身体温めながら待ってて、タオルはここに置いておくね。着替えは今持ってくるから制服は乾燥機の中に入れておいて、ご飯食べてる間にちゃんと乾くと思うから」


「お、おう。悪ぃな」


「気にしないで。お風呂上がったらカレーが待ってるから」


「お前が作ったカレーとか旨そうだな。楽しみにしてるぞ」


「うん。じゃあ、ごゆっくり」
脱衣所のドアを閉めて着替えを取りに行く前に一度キッチンに戻った私は王逆くんがいるなら何かもう一品作れないかなと冷蔵庫の中を物色していると、玄関の方から聞えるはずのない鍵を開ける音が聞えてきて慌てて音のする方へと走りよって行った。


「ただいまー」


「お、お父さん?!なんで?!」
リビングと玄関を繋ぐドアを開ければちょうど家の中に入ってきたお父さんが目の前にいた。


「え、なんでって着替えがなくなったから取りに」


「え、あ!今持ってくるからここで待ってて」
いつもは研究室に篭ると最短でも1週間は帰ってこないのになんで今回に限ってこんなに早く帰ってくるんだ!焦った私はとにかく今家の中にお父さんを入れてはいけないと思い慌ててこの場にお父さんをストップさせ二階へと上がって行こうとした。


「ここでって玄関でか?久しぶりなんだから家の中に入れてくれたっていいじゃないか」


「え!でもそれは・・・・」
まずい、今家の中に上がられるのはまずい。確実に王逆くんと遭遇してしまう。どうする。どうする!!突然のハプニングに完全に思考が停止してしまったまま固まっていれば玄関を見て何かに気づいたお父さんが「ん?」と言いながら首を傾げていた。


「お友達でも来てるのかい?男の子かい?」


「あー!!ち、ちがうよ!今、大きめの靴を履くのが流行ってるんだってー」
玄関に置いてある明らかに男の子のサイズの靴を見たお父さんが驚いた顔で問いかけてきたが、なんとか誤魔化さなければと慌てた私は我ながらひどい言い訳をした。


「へー。若い子の流行はわからないものだね。じゃあ、お友達にもちゃんと挨拶しなきゃな」


「え!いや、いいよ!!あ、人見知りする子だから!挨拶とかあんまり!」


「名無しがいつもお世話になってるんだ。父親としてちゃんと挨拶させてくれよ」


「いやー・・・・」
え、もしかして男の子が家にいるって気づかれた?これは気づかれた反応か?と、お父さんと玄関で攻防を繰り返していれば、お父さんは突然目を閉じて匂いを嗅ぎだした。


「ん?良い匂いだね。今日はカレーかい?お父さんも少しいただいていこうかな」


「あ、待って!」
私の制止を振り切って家の中へとどんどん入っていくお父さんを追ってリビングへと入っていけば誰もいないリビングを見て「あれ?お友達は?」と私に聞いてきた。


「あ、今日泊まっていってもらおうと思って、今お風呂に入ってて!今入ったばっかりだからきっとお父さんが帰った後に上がってくるよ!」
よし、これならきっとお父さんも会うのを諦めて早く研究室に戻ってくれるはず!と意気込んだ瞬間「じゃあ、友達が上がってくるまで待ってるよ」という言葉によっていとも簡単に意気込みは消え去った。


「え!いや、早くカレー食べて研究室に戻った方がいいよ!」


「ん?やけに今日は出て行かせようとするね。何かやましいことでもあるのかい?」


「いや、ないよ!全然ない!」
怖いぐらい笑顔で私に問いかけてくるお父さんに慌てて身振り手振りを加えながら否定するが、一向に信じてくれる気配がしないのは何故だろう。


「じゃあ、父親として友達に一言いつも娘がお世話になってるお礼だけでもさせてくれ。」


「・・・・・わかった」
そう返事をした私は何事もなかったかのようにリビングから出たあと急いで2階の自分の部屋に行って頭の中を整理しようとした。やばいやばいやばいやばいどうしよう。王逆くんをお風呂場からそのまま外へと逃がす?いや、それだと不自然すぎるし、逃がしてる途中で遭遇してしまう可能性もある。じゃあ、そのまま王逆くんをお父さんに会わせる?いやいや、なんでうちのお風呂に入ってるんだ。ってことになっちゃう!あー!どうしよう!!とりあえず、私が考えてる間に王逆くんがお風呂から上がってお父さんと鉢合わせることだけは避けなければいけない。早く着替えを持っていかなきゃ・・・・・そうだ!この手があった!私は着替えを握り締めて急いで下に下りていき勢いのまま脱衣所を開けた。


ガラっ!


「王逆くっ!きゃあ!」


「うおっ!なんで急に入ってくんだよ!」
お風呂場から出てきたばかりの王逆くんは突然中に入ってきた私に驚きながらも急いでタオルを腰に巻いた。嫁入り前の身でありながらなんてことを!


「ご、ごめん!まだお風呂場にいると思ってた!それより緊急事態が!」
手で目を軽く隠しながら少し王逆くんとの距離を縮めていけば、私の慌てた様子に何かを察したのか、王逆くんはタオルを腰に巻いた状態で私に近づいてきた。


「どうした!サーヴァントでも襲撃してきたのか?!」
王逆くんが近づいてきたことによってタオルで拭ききれてない水滴が髪から滴っている様子や何も服を身に纏っていない逞しい上半身が視界に入ってきて思わず顔に熱が集まってきたがそれどころではない!!


「違う!お父さんが帰ってきたの!そして、お友達に一目合わせろって!」


「・・・・はぁ?!」


「どうしよう。男の子なんて家に連れ込んだと知られたらなんて言われるか・・・・」


「いや、別にいいじゃねぇか普通に挨拶すりゃ」


「だ、ダメだよ!お父さん怒るかもしれない」


「お前の父さんそんな風には見えなかったけど」


「昔、小学生の時に私をからかって遊んでた男の子たちがいて、お父さんどこから聞きつけたのか、その男の子たちの住所を調べあげて一人ずつの家に行って今後一生うちの娘に不快な思いをさせることはしません。って誓約書を書かせたことがあって、それ以来私が男の子と絡むのが嫌みたいで、ある日お父さんの部屋に行ったら壁に『名無しに近づく男は全員地獄に落ちろ』って書かれた紙が壁に釘で打ちつけられてて・・・・・」
お父さんは普段はとても温厚だが、昔のその一件があって以来私が男の子と何か関わりがあるのを目撃するととてつもなく不機嫌なオーラを出し男の子を威圧するようになり、挙句の果てには部屋の例の紙の件で相当それが嫌だということを知った私は幼い頃からお父さんに一切男の子の話をせずにここまで育ってきた。


「色んな意味でやべぇな」


「とにかく!ここに王逆くんがいることがばれるとまずいの!だから!!」
私は2階の部屋から持ってきた着替え一式を王逆くんの両手に握らせて渡した。もうこの方法しか残っていない!



*



「お父さんお待たせ。お友達連れてきたよ。えっと・・・王逆赤・・・・子ちゃんです!」


「っ!?は、はじめまして。王逆っス。」
私の紹介を聞いて一瞬信じられないといった表情をこちらに向けたがすぐに前に向き直りお父さんに向かって一礼しながら挨拶をした。


「はじめまして。名無しの父です。名無しがいつもお世話になってます。」


「あ、こちらこそ」


「わぁ、随分と綺麗な子だね。名無しにこんな素敵なお友達がいたなんて知らなかったよ。結構頻繁に2人で遊んだりするのかい?家はここから遠いのかな?学校は楽しいかい?何部に入ってるんだい?」


「いや、あの・・・・・」


「あああ!お父さん!ストップ!!ゆっくり!ゆっくり質問して!」
捲くし立てるようにモードレッドにどんどん質問をしていくお父さんを慌てて制止し、さっきまでお父さんが座っていた椅子までさりげなく導き座らせた。


「あぁ。すまない。名無しのお友達に会えてつい嬉しくなってしまって」


「もう、お父さんたら・・・・。さぁ、王逆く・・・・赤子ちゃんご飯にしましょ!」


「・・・・あぁ」
王逆くんと呼びそうになって赤子ちゃんと呼びなおした私をモードレッドは一瞬ジト目で見たが、この場を何とか乗り切りたい私はモードレッドに向かって、お願い!という表情を見せれば、はぁ。と一回ため息を付きいつもの表情に戻った。


「はい、どうぞ。おまちかねのカレーだよ。赤子ちゃんのにはトンカツとチーズを乗せてみました」
そう言ってモードレッドの前にカレーの皿を置けば、目を大きく見開いてキラキラした表情で私を見つめた。大皿によそったものの量が足りるか心配だな。


「名無し。久しぶりに父さんも名無しの料理を食べたいな」


「うん。すぐ準備するからちょっと待ってて」
お父さんの分も準備しにキッチンへと向かえば、食卓に2人きりになったお父さんとモードレッドが何やら会話をしていた。相手が私の父だからか慣れない敬語をたどたどしく使いながら話している光景がとても新鮮だった。普段王逆くんと会話する大人といえば先生ぐらいなもので、それも大体が怒鳴る先生に立ち向かっているか、怒鳴って追いかけてくる先生から逃げてるかのどちらかだったため、少々困惑はしているが穏やかな表情で会話している姿を見れるなんて貴重なものだ。


「赤子ちゃんの家はあまり門限とかは厳しくないのかい?」


「あー。うち両親家にいないんすよ。父親は顔も見たことねぇし、母親は月に1回生活費置きに家に来るだけでもう何ヶ月も顔合わしてねぇっす」


「なんと、それは大変なご家庭だね。といっても、僕は人の家庭のことにとやかく口出せるような人間じゃないけどね」


「そういえば、名無しから母親がいないって聞いたんですけど」


「あぁ。あの子が小さい時に病気でね。そのせいであの子にはたくさん苦労をかけてしまったし、我慢もさせてしまったけど、今こうやって君のような素敵な友達と出会って明るく過ごしているようだからほんとによかったよ。年頃の娘だから変な虫か付かないかだけが心配だけどね」


「それは俺がいるんで大丈夫っす」


「ははは。それは頼もしいね。口には出さないけどきっとあの子も一人でいて寂しいと思っているだろうから、赤子ちゃんいつでもウチに遊びにきておいでね」


「はい」


「近頃物騒だから可愛い娘を一人を家に置いておくのも心配なんだけどね。この家もそろそろちゃんとセキュリティーに力を入れなきゃなー」


「あの、じゃあ、俺が名無しと一緒にここに住んじゃダメっすか?」


「えっ?」


「俺も名無しのことが心配なんで、名無しとここで一緒に暮らしたいっす」


「住むって・・・・・ここにかい?」


「はい」


「ちょ、ちょっと待った!!何の話を急にしてるのさ!」
お父さんの分のカレーを準備し終えた私は食卓テーブルの方から急に変な会話が聞えてきて慌てて足を急がせた。さっきまで家庭の話をしていたはずなのにどうして急にそんな話しに!


「はい、お父さんの分も準備できたから冷めないうちに食べて」
お父さんの前のカレー皿を置いて一瞬モードレッドの顔を見れば、むっと大変不服そうな顔をしていた。そんな顔をされたってダメなものはダメだ。お父さんと会話しながらもモードレッドはちゃんとカレーを食べていたようで皿を見れば半分ぐらい無くなっていた。


「お前の分は?」
何も自分の分を持ってこないままモードレッドの横の椅子に座れば、モードレッドは首をかしげながら私を見つめた。


「あ、私はさっき食べ終わっちゃって」
咄嗟に思わず嘘をついた。元々明日のお弁当のおかずにと作った肉じゃがの余りの材料で作ったカレーだったため、モードレッドとお父さんの分でカレーがなくなってしまった。他にささっと作れるものでもと考えたが、それほどお腹がすいているわけではないしこのまま眠ってしまってしまえばいいだろう。と冷蔵庫からお茶だけ持ってきた。


「ふーん。お前は細いんだからもっと食えって。ほら、口開けろ」


「えっ!?」
急に私にカレーが乗ったスプーンを差し出してきたモードレッドに驚いて変な声を上げてしまった。


「ほら、口開けろって」


「いや、いいよ!赤子ちゃん食べなよ!」
驚く私を無視してスプーンを差し出してくることを諦めないモードレッドはカレーの皿を片手に持って私にぐっと近づいてきた。


「いいから食えよ」


「え、でも・・・・・」


「あ、俺の本当のな「食べます!いただきます!」
頑なに口を開けようとしない私に一瞬意地悪な顔をしたモードレッドはここで本当の名前を言うぞと脅してきたため慌てて口を開けてスプーンを口に含んだ。私のその様子を見て心底満足した顔をしているモードレッドを見て、困った顔を見せれば「よし、もっと食え!」と更にもう一口差し出してきた。


「君たちほんとに仲がいいね」


「いえ、そんな」
どちらかと言えば今のは完全にいじめられてるの間違いだろう。と冷静に考えていたが、目の前の父があまりにも嬉しそうな顔で私たちのことを見ていたせいで強くは否定できなかった。


「いつか名無しに彼氏ができたらこんな感じなのかな」


「「え」」


「赤子ちゃん。さっきの話だけど、君さえよければ名無しのことお願いできないかな」


「えっ、さっきのって・・・・・」


「名無しと一緒に住む話だよ」