全然眠れなかった・・・・そして何も良い方法が思いつかなかった・・・・はぁ・・・・王逆くんになんて言おう・・・・とにかく!一緒に住むのだけはダメだ!いくら理由があったとしても結婚前の男女が一つ屋根の下なんてやっぱりダメだ!あと、学校では今まで通り接してもらうようにしないと・・・・・変に仲良く接して周りの子たちに私たちの関係が誤解されるようなことなどあってはいけない。そんなことが起きようものなら王逆くんのファンの子たちに私が殺されてしまう!うん・・・・・。王逆くんが来たらすぐに伝えよう。このことはちゃんとしなきゃ・・・・


「おー!名無し、おはよ!お前昨日俺の家に制服のリボン忘れていってたぞ」


「おーさかくん!!!」
今しがた注意をしなければと思っていた人物の爆弾発言により私は今までに無いほどの速さで立ち上がり王逆くんの胸倉を掴んでそのまま教室の外へと押し出した。昨日パジャマに着替えた時に制服のリボンがないことに気づいていたけど、てっきり逃げてる最中に道に落としてしまったと思っていた。まさか王逆くんの家に落としていたなんて・・・・やばい。この状況は非常にまずい。現にたった一言のあの発言だけで、すぐに教室中では、「え、今名前で呼んでた?」「俺の家って言ってたよね?」「制服のリボンを忘れるような事って・・・」とすぐにクラス中の人たちが噂話を始めていた・・・・・殺される・・・・殺されてしまう・・・・


「お、おぅ。ど、どうした!!」


「ちょっと!こっちに!!」
勢いのまま王逆くんの腕を掴み教室の外へと連れ出した。教室の外にいる人たちにその姿を見られたが、もはや、今この被害を最小限に抑えるためにはこの方法しか思いつかなかった。あのまま教室にいれば、この人は確実にもっとすごい発言をしかねない。その前に何とか釘をささねば。


「なんだ?昨日話した一緒に住む話か?」


「王逆くん!!!」
ダメだ。この人は気づいていない。自分の先ほどの発言によって何が起きたか。そして、これから何が起きるかをまったくわかっていない!ようやく空き教室を見つけてすぐに王逆くんを中へと入れた。


「なんだよ。いきなり」


「王逆くん、よく聞いて!学校では今まで通り接して欲しい!」


「なんでだよ・・・・・・」


「じゃないと、戦闘が起こる前に私が人間の手によって殺されてしまう!」


「は?何言ってんだ?」
案の定、王逆くんは怪訝そうな顔で私を見たけど、そんなことを気にしている場合ではない。これは完全に死活問題だ。少女マンガで例えるならば、王逆くんは確実にヒロインの相手役の男の子だ。そして、私はモブその10ぐらいの立ち位置であろう。そんなモブその10が相手役の男の子との関係性を誤解されることなど決してあってはならない!
たとえ、私たちの間に恋心が微塵も存在しなかったとしても、少なからずさっきの王逆くんの発言のせいで、家に行く仲であると誤解されているに違いない。あくまで私たちはただのクラスメイトであり、聖杯戦争においてのマスターとサーヴァントの関係なだけ。それ以上でも以下でもない。今回のような周りに誤解を与えるような行動・言動は今後控えなければいけない。


「だから!」


「あー。なんかよくわかんねぇけど。とりあえず、お前が殺されねぇようにすればいいんだろ?」


「そう!その為にっ」


「お前の言いてぇことはちゃんとわかってっから。大丈夫だ。何があっても俺が守ってやるから」


「王逆くん・・・・」
王逆くんは怒る私の頭を笑顔で優しく撫でて安心させようとしてくれた。さすがの王逆くんでもあの教室の空気の変わりようには気づいてくれたのか・・・・。なら安心だ。きっとこれから今までと同じように接してくれるに違いない。


「あ、そうだ。今日一緒に帰るぞ」


「え?」


「お前ん家に荷物取りにいかなきゃいけねぇだろ?今日から俺の家に住むんだし」


「全然わかってない!」
彼は、私の伝えたかったことを何にもわかっていなかった・・・・


「な、なんだよ。とりあえず、話がそれだけならさっさと教室に戻るぞ」


「はぁ・・・・・」
このまま理解をしてくれない王逆くんと同じことを言い合っても終わりが見えない。と思い、教室を出た王逆くんの後を追って私も教室を出た。ドアを閉めた私の手を「ほら、行くぞ」と王逆くんが握りしめたが、廊下にいる人たちの目を気にして私は咄嗟にその手を振り払ってしまった・・・・・・。「あ」と気づいた時にはもう遅く、王逆くんは一瞬少し傷ついた顔で私に振り払われた手を見つめたが、すぐに前を向いて歩き始めた。その顔を見て私の心はぎゅっと締め付けられて苦しくなった・・・・。だけど、『いいんだ。これが私の選んだ道なんだから。』と自分の心に何度も言い聞かせた。


教室に2人で戻れば、私たちの顔を見てクラス中の人たちがこそこそと話し始めた。
初めて味わうその居心地の悪い空間に思わず足を止めたが、何も気づいていないのか、それとも、この空間を何とも思っていないのか王逆くんは足を止めた私の背中を軽く叩いて自分の席へと座った。その姿を見て私も仕方なく自分の席へと座ったが、すぐに・・・・


「ねぇ!名無さん!王逆くんと付き合ってるの?!」


「いつの間に2人付き合ってたの?!」


「ちょ、ちょっとまって!王逆くんと私は何でもないから!」
突然クラス中の女子が私の席を囲むように押しかけてきて質問攻めをしてきた。こ、ここでちゃんと私が誤解を解かなければ!


「またまた〜!隠さなくてもいいから!もうお家に行くような仲なんでしょ?」


「ていうか、昨日までは名無しちゃんのこと苗字で呼んでたよね?それとも今まで2人きりの時は名前で呼びあってたの?!」


「「「きゃ〜!」」」」


「ご、誤解!!誤解だから!!」
なんだこのカオス状態は・・・・。少しだけこの場を助けてもらいたいという気持ちをこめて王逆くんの方を見れば、王逆くんは王逆くんで阿部くんたちに囲まれて、何やら顔を赤くしながら怒鳴っていたが、クラス中の女子に囲まれて何故か黄色い悲鳴を上げられてるこの場にはあちらの会話は何も聞えてこなかった・・・・


あの後休み時間のたびにクラスの女子に囲まれ永遠に終わることのない質問攻めにあい、最初はクラスの女子だけだったのに、どこから噂を聞きつけたのか、他のクラスからも女子たちが押しかけてきて収集がつかない状態になった。このままでは昼休みの1時間もずっと質問攻めにあい安息の時間などやってこない。と危機を感じて、いつもはクラスの友人たちとお昼ご飯を食べているが、今日だけは。と隙を見てお弁当を手に取ってクラスを抜け出した。よし、非常階段でご飯を食べよう。あそこなら誰もこないはず。