「と、とにかく今日は帰る!お父さんに夕ご飯も作らなきゃいけないし!!いきなり決断なんてできない!」
ただでさえ信じられない出来事がたくさん起きて頭の中がパンクしそうなのに、正常な判断ができてない今、これ以上トントン拍子で流されて色々決断するのはよくない。と判断した私は決断を遅らせてもらうように伝えた。


「お前なぁ・・・・」


「私に何かが起きて負けたら困るのはわかるけど、私はいきなり生活を変えることなんてできない!」
先ほど聞いたこの戦争の敗北条件は、マスターかサーヴァントの死。ということは、私が死んでも王逆くんが死んでもダメ。ということだ。王逆くんが近くにいない時に今日みたいにいきなりサーヴァントが襲ってきて、もしかすると私が死ぬかもしれない。だけど、やっぱり何の説明もなしに家にお父さんを一人残すことなんてできない。


「この頑固女め!」


「王逆くんが強引なの!」


「あー、そうかよ!じゃあ、勝手にしろ!」


「そうします。じゃあ、また明日学校で!」


「どうなっても知らねぇからな!」
王逆くんに言われた「頑固女」という言葉にカチンときて思わず大声で言い返した私はそのまま家を出た。大体なんであんなにすんなり一緒に住むとか結婚するとか決断できるのか理解ができない。もしかして、サーヴァントってそういうものなの?と思わず疑問が浮かぶほどだ。


「はぁ・・・・この手の模様どうしよう・・・・」
右手に出来た令呪を見て思わずため息が出た。聖杯戦争・・・・なんでそんなものに私が・・・・。そうだ、あのおじいさん。あのおじいさんに話かけられて不思議な光に包まれてから変なことが次々と起きたんだ。あの人は一体なんだったんだろう。サーヴァント?いや、もしそうだったとしたら、私を殺すはず・・・・。あー。王逆くんとのこともこれからどうしよう・・・・。もう頭回らないや。明日考えよう。


「あ、お父さん。遅くなっちゃってごめんね。今夕飯・・・・・・あ、買出しし忘れちゃったから今日は出前でも!・・・・ん?お父さん、どこか行くの?」
家の前に着くとたまたま外出しようとしているお父さんと鉢合わせた。逃げる時にあの場に置き忘れてきてしまった買い物袋を思い出して、今日は出前でも取ろうと考えていると、お父さんが大きなリュックを背負っていることに気がついた。


「名無し!悪いがこれからしばらく研究所に篭ることになった」


「えっ?!なんで?!」


「実は、ついさっき近所の廃神社で大規模な火災が起きたんだ。それが、ただの火災じゃなくミステリーサークルのような変な跡がたくさん地面に残っていて」


「?!」
近所の廃神社?!火災?!変な跡?!思い当たることがありすぎて、私は焦った。


「近所では、屋根を人間のような者が走って飛んでるのも見たという人がいるんだ」


「?!!」
私たちだ!!それは確実に私たちだ!!!どうしよう見られてたなんて・・・・住宅街だし目撃者がいて当然だ。どうしよう・・・・完全にキャパオーバーで思考が停止している私の両肩をお父さんが優しく掴んだ


「名無し聞いてくれ・・・・。父さんは・・・・・、父さんは・・・・・ついに宇宙人が地球にやってきたんじゃないか。と思っている」


「お、お父さん、そ、それは・・・」


「目撃した人たちもあれは人間の速さではなかった。と言っている。現場には警察の鑑識でも理解不明な跡がいくつも残っていて、後の現場の調査は未確認生命物体の研究を行っている研究者に任せられることになって、そのチームに父さんも呼ばれた。父さんは宇宙人がこの世に存在することをちゃんと証明したいと思ってる!だから、これから廃神社に行って証拠を集めたらそのまま研究所に篭ってこのことを調べようと思ってる。何日かかるかはわからない。大事な娘を一人この家に残してしまうことになるが、父さんはこの機会を逃したくはない!」


「お、お父さん・・・・」


「わかってくれ!名無し!!父さんのことは嫌いになってもいい!だが、この研究だけは諦めさせないでくれ!!」


「いや、お父さん・・・だから・・・・」


「じゃあ、元気でな!!」


「あー!待ってお父さん!!!」
あれは宇宙人の仕業ではないと説明したいが、そうすると今日起きた出来事を説明しなければいけない。そうなると困るのは私だ。と思うと上手く口から言葉が出てこず、何も言えずにただ走り去っていくお父さんの背中を見つめるだけになってしまった・・・・
今日はほんとになんなんだ・・・・


「お前の父さん出て行ったのか?」


「う、うん・・・・なんか勘違いしてるみたいで・・・・って、お、王逆くん!!な、なんでここに?!」
走り去っていくお父さんの背中を見つめていたら、急に背後から王逆くんの声が聞えてきて思わず驚いて後ろを振り返った。


「べ、別にお前のことが心配で追ってきたわけじゃねぇからな!!勘違いすんなよ!」


「お、王逆くん!それよりさっきの戦いのことが!なんか色々大事になっちゃってるよ!」
私は思わず両手で王逆くんの服を掴んでさっきお父さんから聞いたことを伝えようとしたが、一通り話が聞えていたのか、妙に納得した顔の王逆くんは片手で私の手を握った


「あー。今の所顔は見られてねぇみたいだし、なんとかなんだろ」


「なんとか。って・・・・」


「もし、見られでもしたらそいつを始末しなきゃいけねぇからな・・・」


「えっ?」


「目撃者は口封じをしなきゃいけねぇんだよ」


「そんな・・・・・」
この聖杯戦争に関わることを見た人は殺さなければいけないなんて・・・・今日たまたま私たちの姿をはっきり目撃した人はいなかったけど、今後見られたらその人を・・・・


「だから、俺らはこれからちゃんと考えて戦っていかなきゃいけねぇ。それより、ほら、これ忘れ物だ!」


「え、なに・・・・?あ!ありがとう」
王逆くんが私に差し出した学校鞄と買い物袋を見て、わざわざあの場に取りに行ってくれたのだ。と気づいた。


「あー・・・・・・さっきは悪かったな。少し言い過ぎた」


「王逆くん・・・・・」
頭をガシガシ掻きながら少し気まずそうに謝る王逆くんの姿を見て私は言い返してしまったことを少し後悔した。


「お前の気持ちを少し考えるべきだった」


「うんん。王逆くんが私のためを思って言ってくれてるってちゃんとわかってたのに、言い返しちゃってごめん」


「気にすんな。まぁ、どうなったって、お前が無事ならそれでいい」
王逆くんは掴んでいた私の手を優しく握り直してやわらかく笑って私を見つめた


「王逆くんはなんで・・・・・」


「あ?」


「うんん。なんでもない」
王逆くんはなんでそんなに私のことを大事にしてくれるのか。と聞きそうになった口を思わず止めた。そんなの答えは決まってる。聖杯戦争に勝って願いを叶えるためだ。王逆くんには叶えたい願いがある。そのために今戦ってる。


「王逆くん。私ちゃんとこれからのこと考えるから、やっぱりちょっとだけ待って」


「・・・・あぁ。わかったよ。今日はさっさと寝ろ。さすがに疲れただろ」


「うん。ありがとう。じゃあ、また明日学校でね」


これからどうしていくべきなのか。


王逆くんが傷つかないために私は何ができるのか。


私たちにとって何が最良なのかを考えなければいけない。