「作戦会議もかねて5分時間もらったけど、私は魔術とかろくに使えないし、まさか、私も参加することになると思ってなかったから、弓とかも家に置いてきちゃったし・・・・。セイバーに頼るしかないけど大丈夫?」
先程、突然あちらからルールを決められたこともあり、開始まで5分時間をもらったが、特に戦力として活躍できそうにない名無しは、申し訳なさそうな顔でモードレッドの顔を見つめた。


「あ?別に、元々お前を巻き込む気なんてなかったから大丈夫だ。鈴さえ持ってなけりゃお前が狙われることもねぇだろうし、危ねぇから奥に隠れてろよ」
申し訳なさそうな名無しとは反対にそもそも名無しに何か戦闘の手伝いをしてもらおうと思ってなかったモードレッドはあっさりと答えた。あちらも前回の戦闘の時で名無しに戦闘能力がないことは十分わかってるはずだから、わざわざ狙ってくることはないだろう。それよりも、確実に自分のことを2人がかりで倒しにくるはずだから、それに巻き込まれないように奥にいてくれ。とモードレッドは考えた。


「うーん。隠れてる以外に何かできることは・・・・って、令呪の使用も禁止されてるからなー」


「だから、何もしなくていい。って言ってんだろ」


「あっ!モードレッド!」
突然何か思い出したように声をあげた名無しに考え事をしていたモードレッドは「あー、どうした?」と半分意識が違うところに行きながら返事をした。すると・・・・


「これ!」
そう言って名無しは突然履いているスカートをすーっと捲り上げだした。


「っ?!」
その行動には思わずモードレッドも半分違う所に行っていた意識を全集中させて徐々に露わになる太ももに目を向けた。


「なっ!お前何してっ!」
顔を真っ赤にさせ明らかに動揺しているモードレッドは慌てたように声をあげた。なんだ!こんな山奥で2人きりの状況の時になんでこいつは突然スカート捲り上げてんだ!はっ?もしかして、下着を見せてやる気でも出させようとしてるのか?お前はそんなことするような女じゃねぇだろ!何も力になれないことを申し訳なく思って無理してやろうとしてくれてんのか!?そんなことする必要なんてねぇよ!俺はお前がそばにいれば!


「ま、待て!名無し落ち着け!」


「はい、これ」
そう言って名無しは、太ももに巻いてあるホルスターのような革ベルトから小瓶を取り出した。


「は?」
それを見たモードレッドからは空気が抜けたような声が出た。


「血液入りのカプセルちゃんと持ってきたから、いつでも魔力補給できるからね!」
そう言って、にこっと笑う名無しを見て、色々といかがわしい想像を脳内で繰り広げてしまったことを申し訳なく思ったのと同時に正直少しだけがっかりした。


「これすごい便利なの!ダヴィンチちゃんが作ってくれたんだよ」
名無しのその言葉を聞いて、あいつそれを理由に名無しの太ももに触りやがったんじゃ。と、怒りが沸々と込み上げてきたが、冷静を装いながら、今だに太ももに付いている革ベルトを自慢気に見せてくる名無しの手を掴み、明後日の方向を向きながら、スカートの裾を戻した。


「?」
太ももと言っても、付け根に近い方ではなく、どちらかと言えば膝に近い位置の為、見せることをなんとも思ってなかった名無しはその様子を小首を傾げながら見つめた。


「・・・・・なんかあった時は頼んだ」
今だに名無しから目線を外しているモードレッドはたどたどしくそう告げた。


バンっ!


5分経過した合図で鳴り響いた打ち上げ花火のような音が聞こえ、「行ってくる。お前は、ちゃんと奥に隠れてろよ!」とモードレッドは名無しに声をかけてその場を後にした。


花火が鳴った場所にあいつらがいるはず、と判断したモードレッドは、すぐにその方角に向かって全力疾走して行った。元々人が通るように作られていない森のため、不規則に密集して生えている木々を避けながらも確実にライダーたちに近づいていった。


「たしか、音がしたのはここらへんのはず・・・・っ!!」
突然、横から飛んできた矢を剣で切り落とし、体を反転させると、また矢がモードレッドに向かって飛んできた。


「あいつ、剣だけじゃなくて、弓も使えんのか」
先日戦った時に(あの時自分が本気を出していなかったとは言え)互角に戦える程の剣の腕があることは知っていたが、まさか弓まで扱えたとは・・・・と思いながら、四方八方から飛んでくる矢を切り落とし続けた。


「くそっ!木が邪魔でどこにいんのか全然わかんねぇぞ!」
不規則に四方八方から飛んでくる矢からは、一体今神宮寺がどこにいて、どんな動きをしているのかが全然読めなかった。このままここにいても自分が不利になるだけだ。と察したモードレッドは、もっとひらけた場所を探して、矢を切り落としながら前に進み続けた。走り続け、ようやくひらけた場所に出たと思った瞬間、右から何かがすごい勢いで近づいてくる気配を察した。


「っ!っぐ!」
手首をひねり、剣の広い部分でライダーの攻撃を受け止めたモードレッドは、そのまま後ろへ飛び、ライダーとの距離を取った。


「っは!まさか、てめぇの方からやられにくるなんて思わなかったぜ。雑魚だが、以外と勇敢じゃねぇか」


「あんまり甘くみないで欲しいな。ボクだって、一応サーヴァントなんだよ!」
後ろに下がったモードレッドを逃がさないように、ライダーは剣を振り続けた。モードレッドは、それを全て受け止めて跳ね返した。その際に、右腕が切れてしまったライダーは、瞬時に後ろに下がった。


「いたた・・・・。こんな早くにケガするなんて、またマスターに怒られちゃうよ。あーぁ、セイバーのマスターまた魔力で治してくれないかなー」
腕から血が滴っているのを見ながらライダーが何の悪気もなく言った言葉はセイバーを怒らせるには十分すぎるものだった。


「何、気軽に敵のマスターから魔力もらおうとしてんだよ!あいつは俺のだ!お前なんかに二度と魔力なんてやるかよ!」
そう言って足に力を込めたモードレッドは、一気にライダーとの間合いを詰めた。


「っ?!ヒポクリフ!」
危険を察知したライダーは、モードレッドの攻撃を受け、左に飛ばされた勢いで、ヒポクリフに飛び乗った。


「ふぅ。危なかったー!マスターからなるべく時間稼ぎして。って言われたのに、また、怒られちゃうとこだったよ。というか、セイバー確実にボクのこと殺そうとしてるよね?なんであんなに怒ってるんだろう」
ヒポクリフに乗り、地上から距離が離れたことに安心しているライダーは、小声でひとり言を話していた。


「逃がすわけねぇだろ!そのまま死にやがれ!くらえ!『我が麗しき父への叛逆』(クラレント・ブラッドアーサー)!」
地上からモードレッドの声が聞えてきたライダーは地上へ目を向けると、赤雷をバチバチと体中に纏い、こちらに向かって宝具を撃とうとしているモードレッドの姿が目に入った。


「嘘でしょ?!地上からここまで宝具が届くわけ・・・・!まずい!逃げるよヒポクリフ!触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)!」
地上からだいぶ離れた距離まで上に上がってきたが、それでもあの宝具は必ずここまで届くと感じたライダーは急いで宝具を使用し、モードレッドの宝具を避けた。


「っち。はずしたか!」
寸でのところでライダーに当たらなかったのを見て、モードレッドは盛大に舌打ちをした。


「あ、危なかったー」


「仕方ねぇ、今の半分の威力も出せねぇが、魔力切れ覚悟でもう一発いくか」
モードレッドは、まだそんなに遠くまで離れていないライダーを見て、今なら確実に仕留められると判断し、もう一発宝具を撃とうとしていた。・・・・・が


「令呪なしで宝具を連続で撃とうなんて、無茶にもほどがあるんじゃないかい?」
突然背後から声が聞えてきたため、モードレッドは体中に集めていた赤雷を解き、後ろを向いた。


「なんだ、自分のサーヴァントがやられる所を見に来たのか?」
勝利を確信したモードレッドはにやっと笑いながら、神宮寺の顔を見つめた。


「いや、ライダーはやられないさ。・・・・・ねぇ、君、あんな無力なマスターを一人にしておいて本気で大丈夫だと思ったの?」


「は?」
突然神宮寺から言われた言葉にモードレッドの思考は一瞬停止した。


「もしかして、ずっと君たちの近くにいたのに、気づかなかったのかい?」
モードレッドは神宮寺の言葉を聞いて目を見開いた。名無しと2人でいた時だって、途中、だいぶ動揺させられる出来事はあったが、気を抜いていたわけではなかった。それなのに・・・・


「俺が、気づかなかっただと・・・・?」
もし、さっきの矢の攻撃が神宮寺がやったわけじゃなかった場合、こいつはさっきまでずっと名無しと一緒にいたことになる・・・・。あれから何分経った?10分か?20分か?こいつは、名無しと何分一緒にいた?


「“これ”なんだかわかる?」
そう言って神宮寺が手に持っているものを見て、モードレッドは固まった。


「その反応は、これがどこにあったかも知っているよね?」
目を見開いて固まったモードレッドを見て、にこっと笑った神宮寺は手に持っている小瓶を横に振った。


「てめぇ、名無しに何しやがった!」
ついさっきその小瓶がどこにあるかを見たばかりのモードレッドは、それがたまたま地面に落ちてて拾っただけのものではないことにすぐに気が付いた。


「どっちが鈴を持ってるかわからなかったから、身体をくまなく調べただけだよ。途中、『痛い』って言われたけど、それ以外はとくに」


「あいつが持ってるわけねぇだろ!」


「そんなのわからないだろ。サーヴァントが必ず持ってなきゃいけない。なんてルールは言ってないしね。まぁ、俺達の場合は、ライダーに持たせようものなら、うっかり落としてしまいそうだから、俺が持ってるけどね。そんなに怒らないでくれよ、ルールは破ってないだろ?言ったはずだ。令呪の使用と殺害以外何をしてもいい。ってね」
そう言って、何の悪びれた様子もなく、綺麗に笑う神宮寺を見て、モードレッドの怒りは頂点に達した。


「っ?!こっの、クズ野郎!今すぐ殺してやる!」
神宮寺に飛び掛る勢いで接近したモードレッドはそのまま首めがけて剣をふるった。しかし・・・・


「この前の大会でも思ったけど、君の攻撃はとっても読みやすいんだよ」
神宮寺は刀でモードレッドの剣を受け止めた。


「殺す!てめぇは絶対殺す!」
その後も連続して何度も神宮寺に剣をふるったが全て受け止められた。


「こんな所で俺と遊んでていいの?俺がこんなこというのもあれだけど、彼女、これ以上一人にしないであげた方がいいと思うよ」
剣と刀で押し合っていると、にこっとわらった神宮寺はモードレッドに声をかけた。


「くそっ!」
剣で押したまま神宮寺の腹部に思い切り蹴りを入れて後方に飛ばしたモードレッドは、急いで名無しの元へと走った。


完全に油断していた。
戦闘員とみなされていない名無しは、戦闘に参加しなければ狙われることはないと思ってた。だけど、それも100%ではない。目に入る所にいれば少なからず狙われる危険性が出てくる。だから、モードレッドは奥に隠れていろ。と言った。だけど、違う。こいつは最初から名無しが狙いだった。こんな大事なことを読み間違うなんて・・・・・。お前のこと死んでも守るって約束したのに・・・・・。すぐに行くから待ってろ!