「ったく、あいつは目を離すとすぐこれだ」
俺は替えの竹刀を袋から取り出して、次の試合が行われる試合場へと歩いた。面を付けて一礼をし、開始線で剣を構えてしゃがんだ。そういや、次の相手誰だ?まぁいい、どうせ秒で倒すしな。とすぐに頭を切り替えて、「はじめ」の合図で立ち上がった後、いつものように相手に向かって思い切り踏み込み、体全体で相手の体を押したが、いつものすぐ吹っ飛んでいく奴らとは違い、そいつは、ビクともしなかった。へぇー。これは倒しがいがあるじゃねぇか。と、面の奥でにやりと笑い、面と見せかけて、相手の小手をめがけて竹刀を振り下ろしたが即座に振り払われた。そのまましばらく小競り合いを続き、一度も一本も取れないことに段々苛立ってきた。くっそ!こいつしつけーな!その苛立ちのまま、面に連続で打ち込んでいると、相手の胴回りが隙だらけになった。その隙をつくように胴に向かって竹刀を横に打ったが、手を返すようにして持った竹刀で防がれた。こいつ・・・・・。
そのまま互いに有効打突を取らないまま4分が経過し、延長戦に入った。延長戦では、どっちかが一本先に取った時点で勝ちが決まる。一か八かで突っ込んでいくか・・・・・と竹刀を構え直した瞬間、今まで防御ばかりしていた相手が急に突っ込んできやがった。


「っぐ!」
瞬時に竹刀で防いだが、相手の押しの力が強く、鍔迫り合いのまま動けずにいた。そのままの状態で面の奥に見える顔を見ると、相手も俺のことを見ていた。なんだ、こいつ・・・・笑ってんのか?面の奥に見えた顔が薄っすら笑ってるように見えた俺は、眉間に皺を寄せた。


「まさか、こんな所で再会すると思わなかったよ」


「あ゛?」
何試合中に話しかけてきてんだよ。しかも、再会ってなんだ。


「てめーの顔なんざ、1ミリも覚えてねぇっつーの!」
押し返す力を強めたが、そいつの身体はビクともしなかった。くっそ!マジでなんなんだ!バケモノかよ!


「それは、ひどいな。仮にも助け合った仲だって言うのに」
そう言って少し困ったように笑う目の前の男に怪訝な顔を向けた。助け合った仲だ?そんな覚えねぇぞ・・・・


「あそこにいるの君のマスターだよね?」


「は?」


「そして、君はセイバーだよね?」


「っ?!」
そう言われてすぐにこいつが敵だと察した。俺らの正体を知ってるだと?こいつもしかしてマスターか?どいつだ、どいつのマスターだ!キャスターか?バーサーカーか?!それとも、そいつらの仲間の魔術師か?!もし、この場に他の仲間がいるとしたら・・・・名無しが危ねぇ!


「名無し!!!」
辺りを見渡し、名無しの姿を発見した俺は、大声であいつの名前を叫んだ。今すぐここから逃げろ!そう叫ぼうとした瞬間、頭に強い衝撃が走り、「面―!」という大きな声が聞えてきた。は?
視線を横に動かすと、竹刀を上に持ち上げた状態で相手が立っていた・・・・今・・・・・俺・・・・一本取られたのか・・・・・?一瞬、思考が停止しかけて、そのまま動かずにいると、相手は、一礼をしてその場から去って行った・・・・は?・・・・・は?・・・・・・あ゛?!


「ちょっと待ちやがれー!」
試合会場から出て行ったあいつを追いかける為、俺は竹刀を持ったまま追いかけた。


「王逆くん!どうしたの?!」


「名無し!そこは危ねぇ!今すぐ逃げろ!」


「えっ?!どういうこと?!」


「説明は後だ!今すぐ外に出ろ!」
それだけ言い残して俺はあいつを追いかけた。逃げしてたまるか!なんで俺らのことを知ってるのか、あいつは何者なのかを聞きださねぇと!
会場の外に出て辺りを見渡すと、そいつの姿はすぐに発見した。


「てめぇ、何者だ!」
俺はすぐにそいつの腕を掴んで問い詰めた。


「うわっ!ビックリした。なんだ、追いかけてきたのか」


「答えろ!何者だ!」


「まぁ、ちょっと待ってよ。ちゃんと説明するからこっち来てもらっていい?ここじゃ目立つから」
俺に腕を掴まれてもまったく逃げる様子を見せないこいつは、苦笑いをして周りを見渡した。その視線を追うように俺もそっちに目を向けると、何事か。と好奇な視線が俺らを見つめていた。「キャー!」「あれ、東高の王逆くんだよね?」「ほんとだ!かっこいいー!隣にいるの北高の神宮寺君じゃない?かっこいいー!」「イケメン2人が揃ってるなんて眼福!」「彼女いるのかな?」「東高の子から王逆くんに好きな子がいるって聞いた」「えー!ショック・・・・じゃあ、狙うとしたら神宮寺くんかな?」


うぜぇ・・・・。うざすぎる。今すぐここから消えろ。頭の中で負の感情がぐるぐると蠢き始めた。そんな俺の表情を見て、目の前の男は、「ほら、言っただろ?だから、こっち来て」と言って、「は?ちょっと待て!離せ!」と抵抗する俺の腕を掴んで、森の奥へと歩き始めた。


「いい加減離せ!」
森の奥に連れてこられた俺は、掴まれている腕を振り払った。


「あ、ごめんごめん。さすがにこんなに離れれば大丈夫だね。で、本題だけど、ほんとに俺のこと覚えてないの?」


「覚えてねぇに決まってんだろ!さっさと「あ、マスター!」あ゛?」
突然、森の奥からアホみたいな声が聞えてきて、俺はそっちを睨み付けた。案の定、アホがこっちに向かって、暢気に片手を大きく振りながら走ってくる姿が見えた。


「マスター、マスター!聞いて聞いてー!さっきねー!あれ?君、セイバー?」


「は?ライダーがなんでこんな所に・・・・・今、こいつのことマスターって言ったか?!」
こいつがライダーのマスターってことは・・・・・


「お前、あの時のフード男か!」


「やっと気づいたの?俺は、今日、会場で君のことを見かけた時から気づいてたのに」


「何なに?何の話?」
自分だけ会話に入れていないライダーは、何のことか教えて欲しい。と自分のマスターの腕を掴んで揺すっていた。


「で?なんだ?ここで、聖杯戦争の続きをしようってか?こっちとしては、てめぇらを探す手間がはぶけてラッキーな話だ」
いつでもモードレッドの姿に変われるように、体内の魔力を集中させようと力を入れた。


「あ、いたいた。王逆くん!」


「名無し?!お前、よくここがわかったな」


「あっちにいた女の子たちが、王逆くんが森の奥に言ったって話してたから追いかけて来ちゃった」


「あー!また会えたね!」


「きゃあ!ライダー?!なんでここに?!えっと、そっちの人は?さっき、血相かいて追いかけてたけど・・・・」
名無しの姿を見つけた途端、名無しに突然ライダーが抱きつき、驚きの声を上げた。その姿を見て俺は、すぐに「離せ!離せよ!」とライダーを名無しから引き剥がそうとしたが、アホライダーは「いやだー!」と言いながら名無しから離れなかった。くっそ、こいつ相変わらず馬鹿力だ。


「俺は、ライダーのマスターの神宮寺。さっき会場でたまたま君と君のサーヴァントを見かけたから、話したいことがあってここまでついて来てもらったんだ」
そう言って、神宮寺は名無しに向かって片手を差し出した。名無しは、「あ、あの時の!あの時は助けてくれてありがとう」と手を握ろうとしたが、俺は、神宮寺の手を払い落とした。


「ちょっと、王逆くん」


「名無し、こいつらは敵だぞ。馴れ馴れしくすんな」


「あ、ごめん・・・・」


「可哀想に・・・・よしよし。ボクが慰めてあげる」
ライダーが名無しを慰めるために頭を撫でる姿を見て、頭にがっと血が上った。


「気安く触んじゃねぇ!俺のだぞ!」
ライダーから名無しを守るために、名無しの体をぐいっとひっぱれば、さっきまでの抵抗が嘘だったかのように、すんなり俺の腕の中に名無しが入った。勢いで引っ張ったはいいが、「王逆くん?」と俺の顔を下から覗き込んでくるその顔を見て、顔に熱が集まった。


「悪ぃ」
腕の中にいる名無しの体を軽く押せば、名無しは首を傾げていた。何してんだ俺は・・・・だが、あのアホライダーに名無しを好きなように触られんのはどうにも腹が立つ!


「お取り込み中申し訳ないが、こんな所で会えたのも何かの縁だ。ちょっと話てもいいだろうか?」


「べ、別に取り込んでねぇよ!」


「君たちに提案があって、話を聞いてもらえるだろうか?」


「話だ?聞くわけ「どんなお話ですか?」おい!」
敵の話なんざ聞く気はさらさらねぇ。と話をぶった切ろうとしたが、俺とは真逆にどんな話か興味津々の名無しは前のめりに話を聞こうとしていた。


「君は、話が通じそうで助かるよ」


「一応借りがあるので、で、提案というのは?」


「あぁ。実は・・・・・、バーサーカーがまだ生きている」


「「っ?!」」
神宮寺の言葉を聞いて、俺と名無しは目を見開いて驚いた。バーサーカーが生きてるだと?あれは、アーチャーが倒したはずじゃ・・・・


「先日、ライダーとまだ見つけていないキャスターとアサシンの居場所を探すために街を巡回していたんだが、その時にバーサーカーの姿を発見した」


「嘘じゃねぇだろうな?」


「嘘なんかじゃないさ」


「見間違いとかでは?」


「あの規格外のバケモノを見間違うはずがない・・・・・」
神宮寺の言葉を聞いて、俺も名無しも地面を見つめたまま何も言葉を発さなくなった。ただでさえ、まだ、ライダー、アサシン、キャスターが残ってるつーのに、死んだと思っていたバーサーカーが生きてたなんて・・・・・


「くっそ」


「前回、サーヴァント3人がかりで、しかも、宝具を使った状態でも倒せなかったバーサーカーが生き残っている。・・・・・そこで、提案なんだが」


「なんですか?」


「共闘しないか。と思って」
満面の笑みを浮かべながら発さられた言葉を聞いて、俺と名無しの思考はまた停止した。・・・・・共闘?


「共闘だぁ?!するわけねぇだろうが!俺らは聖杯を争ってる敵だぞ!敵に手を貸すようなことするわけねぇだろうが!」
こんな奴らと共闘なんてありえねぇ。ましてや、こいつのサーヴァントは雑魚中の雑魚だ。共闘した所で役に立つとは思えねぇ。どうせ、俺達を囮に使って、引き付けてる間に両方殺そうとでもしてんだろ。さっきだって俺が目を離してる隙に攻撃してきた奴だ、信用できるはずがねぇ。


「君の言ってることはごもっともだ。俺達は一つしかない聖杯を巡って今争っている最中だ。前回のは、お互いが生き残るための特例だったこともわかっている。また、共闘するなんて、まっぴらごめんだろう」


「あぁ、ちゃんとわかってんじゃねぇか」


「だが、現実的に考えて、あのバーサーカーをサーヴァント一人で倒すのは不可能だ。お互い共闘以外に方法はない」
「そうは思わないか?」と神宮寺は、ずっと何か考え込んでいる名無しに向かって声をかけた。


「うん。たしかにあのバーサーカーを私たちだけで倒すのは厳しいと思う」


「でしょ?」
名無しの前向きな返答に、神宮寺はまた笑顔を向けた。


「おいおい、名無し。共闘するってことはこいつらに背中を預けるってことだぞ。お前、こいつらに背中預けれんのかよ。俺は無理だぞ!」


「それは・・・・・」
俺の言葉を聞いて名無しがまた考えるように地面に視線を向けた。


「返答はすぐじゃなくていいさ。考えておいて欲しい」


「うん・・・・」


「そうだ、ライダー。キャスターの行方はどうなった?」


「あー。それが、追ってる途中で見つかっちゃって、返り討ちにされてボロボロにされちゃった・・・・。てへっ」


「はぁ・・・・まあ、上手くいくとは最初から思ってなかったけど、君には本当にがっかりだ。で、そのボロボロの傷が治っているのはどういうわけだ?」
ライダーはボロボロにされたと言っていたが、見るからに無傷のその体を見て、俺も神宮寺も疑問に思った。自己治癒能力に優れてるならまだしも、こいつにそんな能力があるとも思えねぇ。


「ボクがボロボロになって倒れてた所を、セイバーのマスターが助けてくれたんだー」
ライダーはまた名無しに抱きついて、今度は頬を頭にすりすりと擦り付けた。こいつなんてことしやがんだ!と、すぐに手が出そうになったが、今聞いた言葉が頭の中で反復するように流れた。ん?・・・・・助けた?パスが繋がってねぇんだから、魔力の譲渡なんて・・・・・


「えへー。気持ちよかったなー」
そう言ってライダーは、頬を少し赤らめてヘラヘラと笑いながら人差し指で唇をなぞった。まさか・・・・・まさか・・・・・


「て、てめぇ!名無しから魔力もらったのか!」


「えっ、そうだけど?」
俺の問いに首を傾げながら、まるで、何か問題でも?というような顔をしたライダーを見て、一気に殺意が沸いた。


「セイバーごめんね。でも、死にそうになってたから・・・・」
困ったように笑う名無しの顔を見て、お前、俺が散々キスで魔力を寄こせって言っても頑なにしなかった癖に、こんな雑魚サーヴァントには簡単にするのかよ!という怒りで、ライダーへの殺意が更に沸いた。殺す。


「・・・・・共闘の件、引き受けてやるよ」


「「「えっ?」」」
俺の言葉に3人が驚いた顔で聞き返した。


「だから、共闘の件、引き受けてやるよ!ただし、ライダー!てめぇが俺に勝てたらな!」