沖田総司 風終幕

1日目
sub:沖田日誌
土方さんと出かけた際、五条の茶屋の近くで少し変わった娘さんに出会った。
苗字蘇芳さんというらしい。
恰好は珍妙だったけど、愛らしい娘だった。
芝居をやっているそうだけど、どんな芝居なんだろう。
土方さんを誘って見に行きたいところだけど……きっと乗ってくれないだろうな。

沖田総司



2日目
sub:沖田日誌
今日、また蘇芳さんに会った。
昨日あった、あの珍奇な恰好をしていた娘さんだ。
京は大きい街だし、もしかすると彼女のいる旅芸人の一行は、この近くに滞在しているのかもしれない。

別れ際、ささやかな約束を交わす。

――こんな時勢に不謹慎かもしれないけれど、久々に心が躍る。
蘇芳さん、次に君に会えることを、楽しみにしているよ。

沖田総司



3日目
sub:沖田日誌
西本願寺に屯所を移してからというもの、尊王派もおとなしく、隊も落ち着いている。
土佐の脱藩者が不穏な動きを見せているとはいえ、長州の力が弱まった今、大したこともできないだろう。

それより、近藤さんのお使いに行った際に、また蘇芳さんに出会った。
ここまでくれば、ただの偶然ではないように思えてくる。
蘇芳さんに干菓子を分けてあげてしまったせいで、僕の駄賃はなくなってしまったのは、ちょっと残念だったけど……それ以上の収穫と言えそうだ。

沖田総司



4日目
沖田日誌
部屋に戻ってから、例の咳が出た。
雨に濡れ過ぎたか。

最近、少し咳の頻度が増えてきた気がする。
悩みがない――あの娘にはそう言ったけれど…。

そう、今日もあの娘に出会った。
蘇芳さん。
浅葱の隊服を見ても様子の変わらなかったところを見ると、本当に新撰組を知らないらしい。
あの娘といると……少し血の臭いを忘れられる気がする。

刀の血も。
肺の血も。

沖田総司



5日目
sub:蘇芳さん
死に場所を求めていた、なんて物騒なことを口にしてしまったけど、僕はこの場所にもっと感謝しないといけないかな。

自らを捨てなかったからこそ、蘇芳さんのような人に会えたのだから。

総司



6日目
sub:蘇芳
蘇芳、君のことは僕が守るから。

今は、僕を信じて――。




7日目
sub:沖田日誌
蘇芳さんと別れ、屯所に戻る。
幸い、刀の件には誰にも気付かれなかったようだ。
昨日が非番でよかった。

それにしても――未来?
あれが、あの世界が本当に未来なのだろうか。
立ち並ぶ石の家。
幕府は。
鎖国は。
新撰組は――。

蘇芳さん、君は……。

沖田総司



8日目
sub:蘇芳
よりによって、君の身を寄せている先が、あの坂本龍馬とは――。

もしこれが運命だというならば、こんな皮肉なことがあるだろうか。
運命に身を任す。
あの場所で僕はそう口にしたけれど……。
こんな運命ならば――!

だが何よりも。
今は、蘇芳の元気な顔を見せてほしい。

沖田総司



9日目
sub:沖田日誌
僕は何を思い悩んでいたんだろう。
何に惑わされていたんだろう。

何年先かもわからない未来より、いまこの命の果てる前にやるべきことがあるはずだ。

新撰組。

近藤さんと、土方さんと、僕たちの夢――。

この身の果てるまで、やるべきことをやってみせる。

沖田総司



10日目
sub:沖田日誌
坂本一味が寺田屋に潜伏しているとの情報が入る。

――今夜、御用改めを執り行う。

沖田総司



11日目
sub:蘇芳
たとえ闇にへだたれようとも、時にへだたれようとも、この想いだけは――。

総司

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