小五郎たんのばーすでー 準備編 writer:智生

しとしと雨の降り続く長州藩邸。

晋作さんと二人、雨にぬれる紫陽花を眺めては溜息をつく。

「なかなかやみませんね」

「そうだな。まったくつまらん」

何か面白き事はないかー!と、晋作さんが大声を出すから、気配を察して廊下が騒がしくなる。

「でも、紫陽花のうすむらさき、ほんとにキレイですね。小五郎さんの色…!」

「あいつ紫好きだからなあ………あ。」

「え?」

「そういえば小五郎は水無月生まれだったな。」

「水無月って、今ですよね?ってことは、お誕生日が近いんじゃないですか?」

「二十六・・・たしか二十六日だった。誕生日?生まれた日のことか?」

「そうですよ!!お祝いですよ!しないんですか誕生祝い!」
「そんなにめでたい事か?」

ぽかんとして晋作さんが私をみつめている。もう!

「一年無事に過ごせたお祝いですよ!どうしよう小五郎さんの誕生日まで時間がない!急がなきゃ!」

晋作さんじゃあまた!と慌てて部屋を飛び出すと、背中に向かっておい!と声がかかるのが聞こえた。

「そういや小五郎、いくつになったんだ?」



「大変慎ちゃんどうしようたすけて!」

同じく藩邸の客間。先程まで会合のあった部屋。幸い小五郎さんの姿はなかった。

「どーしたんスか!姉さんそんなに慌てて」

「小五郎さんがもうすぐ誕生日なの!ケーキとか、プレゼントとか用意しないと!」

「けーき…ぷぜれんと…?何スかそれ?」

私の慌てた顔をみて慎ちゃんと、同じく雨で身動きのとれない龍馬さん、武市さん、以蔵が胡坐をかいたままこちらを振り返る。

「誕生日にはね、その人が欲しがっているものをあげるの。美味しいお菓子とかお料理とかを用意して。みんなでお祝いするんだよ。慎ちゃんたちはしないの?」

「うーん、俺たちはしたことないッスけど…でも、桂さんの欲しいものをあげるっていうのは、なかなか普段できないッスもんね!姉さんのその気遣いが素晴らしいッス!」

「ケーキとかお料理とか…ほんとは桂さんが一番得意なんだけど〜」

「桂さんの欲しいものっていったら…」

寺田屋のみんなが、顔を見合わせる。

「あれしかないじゃろ!」

「桂さんの欲しいもの…元来趣のあるお方ですからね。およその見当は…」

「俺も、あれっきゃないってものがあるッス!」

「・・・以蔵はどう?」

「お前こそ変なものを桂さんにあげようとしているんじゃないのか」

「変なものなんてあげないよ!もう!時間ないんだから、じゃあプレゼントは相談して用意してもらってもいいかな??私、料理とケーキ、どうにかするから!」

ばたばたばた…

「姉さん、行っちゃったッスね」

「慎太、そういやあ桂さんは」

「あ!俺もそれ…」

「何歳なんだろうな。年齢不詳…」

「以蔵、失礼極まりない話だ。私より年上だ」

「申し訳ありません!」

誕生日まであとわずか。小五郎さんの誕生日、どうかちゃんとお祝いできますように…!

出迎え編につづく。

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