小五郎たんのばーすでー 準備編 writer:智生
しとしと雨の降り続く長州藩邸。
晋作さんと二人、雨にぬれる紫陽花を眺めては溜息をつく。
「なかなかやみませんね」
「そうだな。まったくつまらん」
何か面白き事はないかー!と、晋作さんが大声を出すから、気配を察して廊下が騒がしくなる。
「でも、紫陽花のうすむらさき、ほんとにキレイですね。小五郎さんの色…!」
「あいつ紫好きだからなあ………あ。」
「え?」
「そういえば小五郎は水無月生まれだったな。」
「水無月って、今ですよね?ってことは、お誕生日が近いんじゃないですか?」
「二十六・・・たしか二十六日だった。誕生日?生まれた日のことか?」
「そうですよ!!お祝いですよ!しないんですか誕生祝い!」
「そんなにめでたい事か?」
ぽかんとして晋作さんが私をみつめている。もう!
「一年無事に過ごせたお祝いですよ!どうしよう小五郎さんの誕生日まで時間がない!急がなきゃ!」
晋作さんじゃあまた!と慌てて部屋を飛び出すと、背中に向かっておい!と声がかかるのが聞こえた。
「そういや小五郎、いくつになったんだ?」
*
*
*
「大変慎ちゃんどうしようたすけて!」
同じく藩邸の客間。先程まで会合のあった部屋。幸い小五郎さんの姿はなかった。
「どーしたんスか!姉さんそんなに慌てて」
「小五郎さんがもうすぐ誕生日なの!ケーキとか、プレゼントとか用意しないと!」
「けーき…ぷぜれんと…?何スかそれ?」
私の慌てた顔をみて慎ちゃんと、同じく雨で身動きのとれない龍馬さん、武市さん、以蔵が胡坐をかいたままこちらを振り返る。
「誕生日にはね、その人が欲しがっているものをあげるの。美味しいお菓子とかお料理とかを用意して。みんなでお祝いするんだよ。慎ちゃんたちはしないの?」
「うーん、俺たちはしたことないッスけど…でも、桂さんの欲しいものをあげるっていうのは、なかなか普段できないッスもんね!姉さんのその気遣いが素晴らしいッス!」
「ケーキとかお料理とか…ほんとは桂さんが一番得意なんだけど〜」
「桂さんの欲しいものっていったら…」
寺田屋のみんなが、顔を見合わせる。
「あれしかないじゃろ!」
「桂さんの欲しいもの…元来趣のあるお方ですからね。およその見当は…」
「俺も、あれっきゃないってものがあるッス!」
「・・・以蔵はどう?」
「お前こそ変なものを桂さんにあげようとしているんじゃないのか」
「変なものなんてあげないよ!もう!時間ないんだから、じゃあプレゼントは相談して用意してもらってもいいかな??私、料理とケーキ、どうにかするから!」
ばたばたばた…
「姉さん、行っちゃったッスね」
「慎太、そういやあ桂さんは」
「あ!俺もそれ…」
「何歳なんだろうな。年齢不詳…」
「以蔵、失礼極まりない話だ。私より年上だ」
「申し訳ありません!」
誕生日まであとわずか。小五郎さんの誕生日、どうかちゃんとお祝いできますように…!
出迎え編につづく。
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