紅花
ある夏の暑い日、小娘は縁側にできた影に座り、写真を眺めていた―
「懐かしいなぁ〜♪」
「よぉ、小娘。」
「あ、高杉さん! 」
高杉は、小娘の見ている写真に目を向け、興味深そうに尋ねた。
「何だ?それ」
「あ、これですか?
去年やった、誕生日パ ーティーの写真、じゃなくて…ホトガラです♪」
「その、誕生日ぱーてぃーってのは何だ?」
「誕生日パーティーっていうのは、祝われる人の生まれた日に開くお祝いの会のことです!!」
小娘は写真を見せながら、誕生日パーティーの流れを高杉に説明した。
「へぇ、面白そうだな。」
「面白いですよ♪そーいえば、こっちの時代では、誕生日パーティーってしないんですか?」
小娘は、この時代に来てからというもの、誕生日パーティーを一度も目にしなかったので聞いてみた。
「この時代じゃ、その誕生日ぱーてぃーってのはやらないな。」
「そうなんですか…皆の誕生日、祝ってあげたいのにな。」
小娘がポツリ、とそう漏らすと、
「そーいえば、小五郎の生まれた日…今日だったな。」
「え?本当ですか!?」
小娘は、思わず高杉に飛びついた。
「わわっ!?確か今日だぞ。」
「どうしよう…今から準備して間に合うかな。」
小娘は一人、ぶつぶつと独り言を漏らしながら悩んでいた。
「なぁ、小娘。」
「…はい?」
「ぱーてぃーはともかく、さっき言ってた"ぷれぜんと"を小五郎にやる位なら、何とかなるんじゃないか?」
「あ…そっか。」
「大切なのは"祝いたい気持ち"、だろ?」
高杉はニヤリと笑い小娘を見た。
「そうです!祝いたい気持ちです!!高杉さん、ありがとうございます。私、ちょっと出掛けてきますね!!」
「あぁ、気をつけろよ〜。」
何かを思いつき走っていった小娘の背中を、高杉は温かく見つめた。
―――――――――――
「う〜ん…プレゼント、何にしようかなぁ。」
小娘は、町に並んだ様々な店を見てまわっていた。
「桂さんが、貰って一番嬉しい物って何だろ。髪の結紐…とか?」
店にはたくさんの品物があるのだが、桂に喜んでもらいたい小娘は、あれでもない、これでもない、と店を巡っていた。
「あーぁ、何かこう、これ!!っていうのが見つからないなぁ…。もうすぐ日も暮れるし、そろそろ帰らなきゃいけないのに…。」
昼過ぎから、ずっと店をまわり探していたが、なかなか納得のいく物が見つからなかった。
「どうしようかなぁ…今日、プレゼント渡したいのに。」
そう思いながら、小娘は藩邸への帰り道に足を向けた。
―――――――――――
藩邸へ着くまでの間も、小娘は何かないかと頭を悩ませていた。
「う〜ん…あ、お花。そうだ、お花にしよう!何で思いつかなかったんだろ。」
小娘は、今来た道を引き返した。
「確か、この辺りに…―あった!これこれ!!紅花♪」
―8月11日の誕生花、紅花―
「良かったぁ。やっぱり、私が誕生日にプレゼントするっていったらお花だよね♪それも誕生花!―あ、いけない。暗くなってきちゃった!急いで帰らなきゃ。」
摘んだ紅花を胸に、小娘は笑顔で帰路についた。
―――――――――――
「晋作、小娘さんを知らないかい?昼餉の後から見かけないんだが…」
昼餉の後、縁側で小娘と2人で話していたのを見ていた桂は、何か知っているだろうと高杉に尋ねた。
「あぁ、小娘なら出掛けたぞ。」
(出掛けた?ということは、まだ戻ってきていないのだろうか。暗くなってきたというのに…)
「そんなに心配なら、迎えにでも行ってきたらどうだ?顔に出てるぞ。」
「///!?…まぁ、こんな時間まで帰ってこないのは心配だからね。ちょっと見てくるよ。」
「あぁ。」
桂は、頬を赤く染めながら静かに部屋を出ていった。
―――――――――――
「只今戻りました〜…って、桂さんに見つかったら怒られちゃうよね。静かに入ろっと。」
「小娘さん。」
「きゃぁ!?って…桂さん。こ、こんばんわ…。」
「こんばんわ。」
桂は、黒い笑みを浮かべながら小娘に応えた。
(やばい…桂さんの笑顔、黒いよ…)
「それで、こんな時間まで小娘さんはどこに行っていたのかな?」
「えっと、あの…その…」
「話は後で聞くから、先ずは着替えてきなさい。」
「あ…。」
小娘の着物は着崩れ、裾には土が付き、髪は乱れていた。
「いいね?」
「はい…。」
―――――――――――
(まったく…帰ってきたと思ったら、あの格好…)
「…お説教、だね。」
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