あの子が帰りたくない理由byかえ

小娘さんに誘われて二人で街をぶらつく。

彼女から誘われたことは気恥ずかしいがやはり嬉しく思う自分がいる。

神社に参拝してここは縁結びにご利益があるというと顔を真っ赤にしていた。甘味処で葛切りを頬張り、また歩いて小間物屋をひやかしたり見世物を見つけてはしゃいだりする小娘さんはやはり可愛らしい。そばにいて、こんなにも心が優しくなれるなんて、ね。

しかし、その様子に気になる点がある。


「疲れてないかい?そろそろ帰ろうか?」
「え!?いえっ、大丈夫です!それより…桂さん!次はあのお店に行きたいです!」
「え?さっき休んだばかりじゃないか。」
「さっきとは違うものを注文します!」
「ふうん…」
「…桂さん、いいですか?」

どうやら藩邸に私を帰らせたくないようだが、どうせ晋作だろう。何か二人でこそこそ話しているのは見ていたから何かしら企んでいるのは想定済みだ。…が、彼女がこんなに必死にお願いしてくるなんてやはり理由が有りそうだ。それにしても上目遣いで私の顔をうかがってくる小娘さんには正直悪戯心が芽生えてくる。


「…桂さん?」
「ん?ああ、すまないね。うん、じゃあひと休みしようか。」
「はいっ!」

とたんにぱあっと明るい表情になる小娘さんにつられて笑顔になってしまう。気になることはあるが、まあいい。今は小娘さんに付き合ってあげるとしよう。

だってこんなに可愛いひとを放っておけるわけないだろう?










そのころ長州藩邸では…


「こっちでええんかのう?」
「龍馬さん、もう少し上っス。あ、もうちょい右…そこでいいっスよ!」
「飾り付けちうのも難儀なこっちゃ。」
「でも俺は楽しいっスよ?なんたって"ぱーてー"ですからね!」
「ほうじゃの。小娘さん…いや、桂さんのお祝いぱーてーじゃき、喜んでもらえたらえい!」

「おい!これも飾るぞ!」
「うわ!高杉さん!?それは七夕飾りっスよ!?」
「いいんだ!派手でいいだろうが!ほら、願い事も書けるぞ。」
「まあ…季節的には間違いではないが…」
「慎太、"背が伸びますように"と書いてやろうか。」
「余計なお世話っスよ!以蔵くんこそ"助平がなおりますように"って書いてあげるから!」
「なっ!?」
「なにいっ!?以蔵、何かしたんか!?」
「さっき姉さんの着替えが入った行李を開けてたっス!」
「おい!あれはわざとじゃない!飾りを入れてるのと間違えただけだ!」
「言い訳は見苦しいぞ!」
「先生っ…しかし…」
「おい!でも武市も横から覗きこんでただろうが!」
「なっ!そんなこと」
「いーや!オレは見たからな!固まる岡田の横から覗いていたぞ!」
「ち、違う…!あれは、その…」
「武市!おまんは…こ、この助平師弟が!そこになおれ!成敗しちゃる!」
「やめんか!」
「いいぞ!やれやれ!」
「先生から手を離せ!」
「ああっ!飾り付けが…!もうやめてください!早くしないと姉さんと桂さんが帰って来ちゃうっスよ!」


どったんばったん。
さてどうなることか。準備は間に合うのでしょうか。

パーティーまではもう少し。それぞれの笑顔でお出迎えすることでしょう。それはまた、別のお話。

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