その瞬間に、そっと

「そろそろかな…」
私は携帯電話に電源を入れて時間を確認した。
こっちにきてから、勿体ないからと必要最低限しか使わないようにしていた携帯電話。
23:56
画面の時計がそう示している。
いけない、過ぎちゃう…!
私は少し焦って布団を出た。

ゆっくりと戸を開け、そーっと足音をたてないように廊下を歩く。
ごくり。
愛しいあの人が眠る部屋の前まで辿り着くと、私はその戸を用心して開ける。
戸を開けた隙間から月の光がこぼれていた。
ああ、今日も月がキレイだなぁ。
そんなことを思いながら私は部屋の中に歩を進めた。

部屋の中央に敷かれたお布団。
そこで眠る愛しい人、小五郎さんは規則正しい寝息をすうすうとたてていた。
この部屋に光をもたらす月もとてもキレイだけど、月さえも敵わないほどこの人は美しい。

枕元に歩み寄り、その顔に視線をやる。
透き通るほどに澄んだ白い肌
瞳が閉じられているせいでいつもより長く見える睫毛
さらさらと流れるまっすぐな髪
そして薄いながらも艶々とした唇
それらの全てが月明かりに照らされて美しく輝いている。

気持ち良さそうに眠っている小五郎さんをずっと見ていたい衝動にかられたけれど、私は本来の目的を思い出して我に返る。
そして持ち出した携帯電話をちらりと覗き見た。

23:59------0:00
数字が変わった瞬間、私は自分の顔をそっと小五郎さんの顔に近づけて…

ちゅっ。
やわらかな唇にそっと口付けた。
「Happy Birthday 小五郎さん」
私はそっと囁いて部屋に帰ろうと立ち上がりかけた、その瞬間。
ぐいっと腕を掴まれた。

「小娘さん…?」
ぼんやりとした表情で小五郎さんが私を呼ぶ。
わわっ、起しちゃった…どうしよう!

顔を赤く染めながら焦る私に小五郎さんが問いかける。
「はっぴーばーすでいとはどういう意味だい?」
「えっと・・・小五郎さんのお誕生日が6月26日だって聞いて。その、お誕生日おめでとうって意味なんです」
小五郎さんは?を顔に浮かべながら思案しているようだ。

「私のいたところでは、その人が生まれた日にお祝いをしたり贈り物をしたりするんです」
私が懸命に説明すると、小五郎さんはにっこり微笑んだ。
「それじゃあ小娘は、私の誕生日を祝って口吸いしてくれたんだね?」
そう言った小五郎さんの微笑みが幾分か色を帯びた…のは気のせいだろうか。

こくりと頷く私に小五郎さんは言葉を続ける。
「それじゃあ、ゆっくりいただこうかな、小娘を」
「えっ・・・」
いきなりの小五郎さんの言葉にびっくりしたのと同時に、恥ずかしくてうれしくてたまらなくなる。
「贈り物として小娘の全てを私にくれるんじゃないのかい?」
そう言って小五郎さんは私を抱きしめ、私の胸元に手をかけた。

少し開いた戸の隙間からは月の光が先ほどと変わらず優しく射し込んでいた。


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