Magnolia
私と小五郎さんはふたりで相談して毎朝1時間ほど早く起き、ふたりの時間を持つことにした。
「朝か?別に夜でもいいんじゃないか?かしらの俺が許すぞ!」
と、高杉さんに揶揄されたけど
「小娘さんはね、嫁入り前の娘さんだから。」
と、小五郎さんらしい折り目正しい意見。
私の目の前で『嫁入り前の娘さん』なんて小五郎さんに言われると、少し他人行儀のような…なんとなく寂しい気がした。
考えてみれば、当たり前なんだけどこっちの時代は携帯で話すこともメイルもできない。
恋人同士はどうやって連絡を取り合って、デートしたりしてるのだろうか?
文をしたためる?…あれって、平安時代…とかだっけ?
ペアリングとかもないし…。
恋人たちはどうやってお互いの気持ちを繋いでいるんだろう?
私の時代なら、彼氏ができたら即、お揃いのアクセサリーを買いにいくんだけど…。
確かに私と小五郎さんは同じ屋根の下で暮らしているけど、この長州藩邸はとても広かった。
私の与えられてる部屋も両隣はだれも使っていなくて、正直言えば、最初の頃は夜なんか怖くて眠れないこともあった。
毎朝、小五郎さんと高杉さんと朝ご飯は一緒に食べるけど小五郎さんは大政奉還という大義を成し遂げるために忙しく、なかなかふたりっきりにはなれない。
本当に私たち、恋人同士になれたんだろうか?
ふたりっきりでいる時は、本当に甘い小五郎さんだけど、それ以外の小五郎さんはやっぱりいつもの冷静で、できる大人でキリっとしてて…。
「ううん。でもいいっ。だって早朝デートだもんっ。」
自分に言い聞かせて、きゅっと帯を締めた。
藩邸の中庭に出ると、もう終わってしまった藤棚の下で小五郎さんが待っていてくれた。
「お早う。」
「おはようございます…。」
あ…なんかテレちゃう。
小五郎さんがすっと、手を差し伸べてくれたから私も自然に小五郎さんの手を握り返した。
少し、冷たい手。
私の目を見て微笑む小五郎さんが急に繋いでいる手を唇に持って行く。
「こうして触れたかった、ずっと。」
私もですって、言いたいけどドギマギして声にならない。
「行こうか。」
ふっと、笑いながら小五郎さんが言う。
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