また、いつか。
鼻を刺すように甘く薫る、梅の樹。
藩邸前にひっそりと佇む、晋作がこよなく愛した梅の樹が其処にある。
「…何も、変わらないな…。」
変わってしまったのは、私達人間だけ。
醜い争いも、睨み合っているのも
この世で人間だけだ。
「…本当に、馬鹿げている。」
時々、自分のしている事の価値が分からなくなる。
…その内、この藩邸も取り壊されてしまうだろう。
さすれば、この梅の樹も…。
…私は梅の樹から一本、枝をもぐと
自身の懐に、傷つけぬようそっと仕舞った。
・・・
永遠に、遺しておきたいものがある。
いくら時が経ち、己の身体が朽ち果て風化したとしても
この地の温もり、友と彼女への想いは、
この胸に閉じ込めておきたい。
「私に、出来るだろうか。」
二つの太陽が去って以来、漸く消えかけた“逃げ癖”がまた大きくなり、
私の心を常にざわつかせている。
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