また、いつか。
“木戸孝允”
今では周りからそう呼称される。
半生を共にした共も、最愛の娘も
…全てを失い、一人になった今。
私は再び心を閉ざし、感情を表に出さないように努めている。
受け止める人間など、いないのだから。
空に居る晋作には、笑われてしまうだろうか。
…それとも怒鳴られてしまうだろうか。
彼女と出会う前の私は、
心なんて有るようで無いようなものだった。
…だが、意図的に感情を殺している今、
ふと気付いた時に涙が零れていることがある。
そんな時、必ず空に昇っているのは、
半透明に白く輝く昼間の月だ。
...いつか、彼女に言われた言葉を思い出す。
"桂さんは冷たい月なんかじゃない!"
"...昼間に昇る、この世界で一番素敵な月です。"
あの日誓った、"永遠に共に居よう"と契りは、
ついに果されることはなかった。
「私には、眩し過ぎる太陽だったな。」
...そう呟く私の足は嘗ての都、
長州藩邸に向かっていた。
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