あの子が溜め息を吐いた理由by蘇芳

市中に鐘の音が響く。

鐘が7回なったら帰ってきてもいいと高杉さんに言われてたし、もう帰っても大丈夫かな?

滅多にない二人きりで、しかも町を歩くなんてなかなかないからホントはすごーく名残惜しいけど…みんなを待たせるわけにはいかないしね。

「桂さん、今日は付き合っていただいてありがとうございました。すごく楽しかったです!」

「そうかい?私こそ久しぶりにゆっくりさせてもらったよ。」

ふたりでニコニコと微笑み合いながら帰路についた。


段々と夕闇に包まれていく京の町


「少し足元が暗くなってきたね。小娘さんを迷子にしないようにしないと」

目の前に出された桂さんの手のドキドキしてしまい、「迷子になんかなりません!」と少し強い調子で返事をしてしまった。

いつまで経っても子供扱いをする桂さんにぷぅと膨れて見せたが、桂さんは「ふふふ。可愛いね」と笑いながら優しく手を引いてくれる。

こんな態度が余計に子供扱いに拍車をかけてるんだろうなぁ。もともと大人の男性なのに今日更に一つ年を重ねるとなると

………はぁ………

小娘は一人心の中で自分の子供っぽさを反省していた。


やがて藩邸の長い長い壁が見えてくると知らず知らず小さな溜め息を吐いてしまった。

「小娘さん溜め息なんてどうしたの?歩き回って疲れたんじゃないかい?」

「い、いえ違うんです!藩邸についちゃうなぁって…あ!なんでもないです!」

これから誕生日パーティーなのにこんな顔じゃダメダメ!

どうにか取り繕おうと言葉を選んでいていると、門前に待ちきれないといった表情の高杉さんが「おお〜い」と叫んで私たちを呼んだ。

「晋作…まったくあんな大声で!」

桂さんは眉を潜めながらも引いてくれていた手を高杉さんの方からは見えない角度に変え、門に向かって足を早めた。

***

大切な客が待っているから奥の間に急げと急かす晋作に促され、小娘さんもということは坂本くんか、いや大久保さんかもしれないと色々思案しつつ、歩を進める。

知らず知らず眉間に皺がよっていたようで晋作から「そんな難しい顔をするな」と声をかけられたが場合によっては一刻を争う。

「失礼」と声をかけ、静かに障子を引くと見馴れた面々の笑顔と飾り付けられた部屋そして宴の準備に一瞬虚をつかれた。


「「「「「「誕生日おめでとうございます!」」」」」






パーティーはこれから!
桂さんの驚いた表情や笑顔がみられるのはなかなかないんだけど…
それはまた別のお話。

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