Magnolia



口付けのあと__。

小娘を抱きしめる。

折れそうなくらい細い身体…頬にあたる柔らかな髪…。

辺り一面から放たれる甘い香りに彼女を想う気持ちが昂り、もどかしくて気が狂いそうだった。



愛おしくて抱き潰して…壊してしまいたい衝動…。



小娘は私の腕の中で、幸せそうに目を瞑って胸に顔を寄せている。

彼女はそれだけで満足だと言う。

その気持ちの違いを感じた少しの落胆が、僕を冷静にさせた。



「こんな素敵なところ、あったんですね…。」

抱(いだ)かれたまま彼女があたりを見渡して言う。

「うん。綺麗だね。」

「小五郎さん?私ね、こちらの時代の人って、デートとか何処に行くのかな?って、思ってたんです。」

「でえと?」

「デートって、恋人同士がふたりで会って出かけることです。他にもどうやって連絡を取り合って、会う約束をしたり、お互いの気持ちを伝えるのかな?とか、恋人同士の証しってどんなものなのかな?とか。そんなことばっかり考えてたの。」

「…そうなんだね。」

「だから…私、小五郎さんの恋人に本当になれたのかな?とか。あのときのことは本当だったのかな?とか…そんなことばっかり考えちゃって…。」

「…不安だったの?」

「ううん。違うんです。それで私、気付いたんです。結局、便利すぎちゃうと人間って、ものに頼りすぎちゃって、心が…自分の気持ちがどうなのかって見えなくなっちゃうんだって。」

「物質的な証しばかりにこだわって、本質が見えなくなる…ってことかな?」

「ええと、そうです。」

彼女は私の手を取り、その手を彼女の左胸に置いて言った。

「私と小五郎さんはちゃんと心で結ばれてる。」

私を見上げる小娘の澄んだ瞳。

手から伝わる彼女の鼓動…。

「わかったの。それだけで、嬉しいの。」

「ふ…小娘…、わかったよ…。」

「え?」

「…ゆっくり。」

「…。」

「ゆっくり育もう__?僕たちの愛を…。」




さっきと同じくちなしの香りなのに____。


甘い香りは扇情的なものから、静寂な愛の香りに変わっていた気がした。




このまま、ふたり。






You're My Sweetness.

愛を語ろう



(fin.) written by モモンガ


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