Magnolia
*
口付けのあと__。
小娘を抱きしめる。
折れそうなくらい細い身体…頬にあたる柔らかな髪…。
辺り一面から放たれる甘い香りに彼女を想う気持ちが昂り、もどかしくて気が狂いそうだった。
愛おしくて抱き潰して…壊してしまいたい衝動…。
小娘は私の腕の中で、幸せそうに目を瞑って胸に顔を寄せている。
彼女はそれだけで満足だと言う。
その気持ちの違いを感じた少しの落胆が、僕を冷静にさせた。
「こんな素敵なところ、あったんですね…。」
抱(いだ)かれたまま彼女があたりを見渡して言う。
「うん。綺麗だね。」
「小五郎さん?私ね、こちらの時代の人って、デートとか何処に行くのかな?って、思ってたんです。」
「でえと?」
「デートって、恋人同士がふたりで会って出かけることです。他にもどうやって連絡を取り合って、会う約束をしたり、お互いの気持ちを伝えるのかな?とか、恋人同士の証しってどんなものなのかな?とか。そんなことばっかり考えてたの。」
「…そうなんだね。」
「だから…私、小五郎さんの恋人に本当になれたのかな?とか。あのときのことは本当だったのかな?とか…そんなことばっかり考えちゃって…。」
「…不安だったの?」
「ううん。違うんです。それで私、気付いたんです。結局、便利すぎちゃうと人間って、ものに頼りすぎちゃって、心が…自分の気持ちがどうなのかって見えなくなっちゃうんだって。」
「物質的な証しばかりにこだわって、本質が見えなくなる…ってことかな?」
「ええと、そうです。」
彼女は私の手を取り、その手を彼女の左胸に置いて言った。
「私と小五郎さんはちゃんと心で結ばれてる。」
私を見上げる小娘の澄んだ瞳。
手から伝わる彼女の鼓動…。
「わかったの。それだけで、嬉しいの。」
「ふ…小娘…、わかったよ…。」
「え?」
「…ゆっくり。」
「…。」
「ゆっくり育もう__?僕たちの愛を…。」
さっきと同じくちなしの香りなのに____。
甘い香りは扇情的なものから、静寂な愛の香りに変わっていた気がした。
このまま、ふたり。
You're My Sweetness.
愛を語ろう
(fin.) written by モモンガ
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