Magnolia
藩邸を出てしばらく歩くと神社があった。
入ると辺り一面にくちなしの花が咲いていて、甘いいい匂いが漂っている。
「うわ〜ぁ…すっごくいい匂い!」
「気に入ったかい?」
「はい、とっても!私、くちなしの花が大好きなんです。」
「ふふっ。それは良かった。」
そう微笑む小五郎さんは、朝露に濡れて光るくちなしの白い花をバックに、ドッキリするほどの綺麗な顔でたたずんでいる。
「…あれから。」
「はい?」
「あれから身体はどう?」
「え?////」
…ど、どういう意味だろう?
「はいっ!げんきです!」
「?」
「え?」
「ふふふ…ははは…。」
こ、小五郎さん…わ、笑ってるぅ…。
「もう!小五郎さん、いじわるっ!」
思わずむくれると
「ははっ。すまない。あの日…無理をさせてしまったかなって、少し気がかりだったから。」
「だ、大丈夫です。////」
なんだか恥ずかしくて俯いてしまう。
____キスを待つ瞬間。
小五郎さんが一歩、私に近づいて私の顎にそっと手を当てる
ドキドキして鼓動は早鐘のようだった。
そのまま顎を優しく上げられて、小五郎さんに届くようにつま先で背伸びになる。
朝の澄んだひんやりとした空気の中で、とっても優しいキスを受けた。
ちゅっ…
最初は啄むみたいに。
ちゅっ…
それから角度を変えて少し深く。
ちゅっ…
小さく舌を差し出してさらに深く。
背筋を伸ばしてつま先立ちで受けた、私のせいいっぱいのキス。
はぁ…と吐息を吐いて、かかとを降ろすと
ふわりと小五郎さんが私を抱きしめてくれた。
「今朝は、ここまで。」
頭の上に顎を置いて小五郎さんが言う。
「小五郎さん…。」
「満足かい?」
「…はい。」
もう胸がいっぱいで…嬉しくて…ドキドキして…。
「…私は、満足じゃないけどね。」
「え?」
抱きしめられたまま顔を上げて小五郎さんを見た。
「ふふ…こんなことを言う私は変だろうか?」
そう言って私のおでこに頬を寄せた。
「…へん…っ変じゃないです…。
私もずっと…小五郎さんに触れて欲しかったから。」
「そうなんだね。」
「でも、もうこうやって抱きしめてもらえただけで、胸がいっぱいなの…。」
本当に__いまの精一杯の気持ち。
こんなに静かな綺麗な朝に、一面の甘いくちなしの香り…
そして大好きなあなた___。
これ以上何を望むの?
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