建前

京都の夏は蒸し暑い。

(未来にいた時も確かに暑かったけど、やっぱり盆地だからかな…。
着物が暑いのかな…)

ぼぅ〜ととりとめのないことを考えていたら襖をひく音が聞こえた。

はっと振り向くと大久保さんが普段好んできている着物とはちょっと違う、一見黒に見える深い深い緑色に何か柄が織られた浴衣姿で現れた。


(う…何きても似合う顔って羨ましいわ…)


「おい、小娘、何を惚けた顔をしている。見惚れるのはそれくらいにしろ。準備はできたか?」

「は、はい。お待たせしました。」


今日は大久保さんが祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)に連れて行ってくれるということで大久保さんが用意してくれた浴衣とそれにあわせた一式の小物に着替えた。
生成りに萩や桔梗が描かれた自分では絶対に選べないような大人っぽい浴衣。
黄色の半幅帯、巾着、下駄、そしてかわいい帯止めまで。

(ほんと大久保さんっておしゃれだよなぁ。。。)


私の考えていることがわかっているのか、口の端を上げ、
「私の連れとして歩くのだ。小娘とはいえ、それなりの格好をしてもらわないとな」
と素敵な笑顔とともに憎まれ口を紡いだ。


「小娘は祭りが好きといっていただろう。本来なら葵祭りに連れて行ってやろうと思ったのだが、あの折は私も忙しく、おまえも風邪なんぞひいていたしな。」

「葵祭り?武士はお祭りに行かないって聞いたんですが・・・」

「葵祭りは祭りといっても帝や公家を中心とした祭りで町人たちの祭りとは違う。」

「じゃ、今日行く祇園御霊会ってお祭りなんですか?」

「…祭りというか、小娘が病気をせぬよう祈願だ」

大久保さんはなぜか少し気まずそうに視線をそらした。


***


連れ出された先にあったのは八坂神社。
そこから四条方面を眺めると、いつも以上に多くの人で賑わっていた。
いつもの京都の町の風景とは全然違う別世界。
夕闇に浮かぶ山鉾がたくさん見える。


「・・・これって・・・祇園祭?」

昔、TVで見た祇園祭の宵山の光景に似ている。

「ほう、先の世にもあるのか」

私の顔を見た大久保さんが目を細める。

目の前に広がる素敵な光景につい足が止まってしまうと先に歩いていた大久保さんが振り返り、注意を促す。

「ほら、ぼやぼやするのは顔だけにしろ」

「ぼやぼや顔って…!ね、大久保さん、これってお祭りじゃ…こんなに夜店もいっぱいだし」

「……祭り?なんのことだ。
この祇園御霊会は平安時代に成立した御霊信仰を背景に、行疫神を慰め和ませることで疫病を防ごうとしたのが始まりと聞く。
急に体調を崩す小娘にはちょうどよいだろう?」

ふんと鼻を鳴らし、正面を向いてしまった大久保さんは少し暗くなって良く見えないけど少し頬が赤いような…

そんな横顔を見ていると自分の頬がカッと熱くなるのを感じた。
所在無く視線をウロウロさせていると、ふいに、大久保さんの大きな左手が私の右手を包み込んだ。

「え?!」と顔をあげるとさっきの赤かったようにみえた頬はすっかり姿を消し、いつもの不敵な笑顔が顔に近づいてくる。

「こんなに人が多いんだ。はぐれたら見つけるのが面倒だ」

耳元に低い声でそうささやかれると、心臓はもうバクバクと破裂寸前で…
護衛としてすぐ側に半次郎さんもいるし、二人っきりではないのは充分わかっているんだけど…。
きっと人ごみの賑やかな声が話し声を書き消してしまわないようにするための配慮で他意はないだろうけど…

「まぁ…、小娘には物珍しい魅力的な店も多いだろう。少しくらいなら付き合ってやってもよい。」

「ほんとですか?やったぁ!」

「明日は鉾が巡行するから、それを見に行く手はずになっている。だから、今夜はあんまりはしゃぐなよ…おい…聞いているのか?」

「…は、はい!って明日も時間がとれるんですか?」

「ああ」

「珍しいですね〜!!!」

ものめずらしい夜店にきょろきょろしながら答えると、大久保さんが何か小さな声で呟いた。

「そのためにどれだけ先に仕事をしたと思っているんだ。」

「へ?なんですか?」

「たまにはゆっくり休ませろと言ったんだ。茶利」

ぐいと大久保さんの傍らに引き寄せられ、包み込まれるようにして人の多い大通りをすすんだ。






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