年貢の納めどき

高杉さんのお気に入りのお店へ小五郎さんと干菓子を買いに出た帰り道、街の様子がいつもとは一変していた。

さっきまでは「早く藩邸に戻ってみんなでお茶にしましょうね」なんて気楽な話をしていたのに…今は新撰組の羽織を着た人がいたるところにウロウロとしている。

「何かあったんだろう。今帰るのは危険だから此方へ」

小声で囁く小五郎さんに手を引かれるまま、一軒のお茶屋さんに入った。

小五郎さんはお店の人に「あの部屋は開いているかい」と手馴れた様子で訊ね、「はいこちらへ」と心得たように促すお店の人に続いて、店の2階へすすんでいった。

通された部屋は広くもなく、狭くもない普通のお部屋で、窓から街の様子が見えるような角度にある所だった。

小五郎さんは廊下で店の人と一言二言言葉を交わして部屋に戻ってきた。
目が合うと、
「かえ、急がせてすまなかったね。あの様子だったら一軒一軒店を改めたりはしないだろうから、ここで少し様子を見よう」

「いえ、すいません。私が居なかったら藩邸に戻れていたんですよね」

「あやまらなくてもいいんだよ。君を危険に晒すわけにはいかない」

頭に手をぽんぽんとのせられるとさっきまでの緊張が少し落ち着いてきた。

「ここは?」

「市中にいくつかある藩の者がやっている店の一つでこういう時に利用するんだ。表向きは出会い茶屋だよ」

「えと、出会い茶屋って?普通のお茶屋さんと違うんですか?」

小五郎さんは一瞬気まずそうな表情を浮かべたかと思うと、「…まぁ、そんなに変わらないよ。もうすぐお茶がくるから干菓子でも食べよう」とニコリ笑った。

(あ、なんか今誤魔化されたなぁ…)

しばらくすると「失礼します」と店の人がお茶を持って来てくれ、街の様子についても報告してくれた。

「ふむ、それなら1刻もしないうちに出れそうだね」

「はい。それにしても桂様がこのような可愛らしい娘さんを連れてこられたのでご利用なのかと思いました。」

(ご利用?)

「お、おい!」
動揺を隠すかのような小五郎さんの鋭い声が店の人へ向けられる。

しまったという顔をした店の人は「失礼致しました」とそそくさと出ていってしまった。

その場をとりなすように小五郎さんはコホンと咳払いをして、お茶に手を伸ばしたので私もお茶を頂くことにした。



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