天然の策士

高杉さんの手から逃れつつ、部屋を出て行った小五郎さんの背中を追いかける。

「小五郎さ〜ん!待ってください」

追いついた時には、先ほどちらりと見えた赤い耳はもうすっかり元通りになっていて、振り返った小五郎さんはいつもの小五郎さんだ。

「なんだい?」

「さっきみたいに方言で話してみてもらえませんか?
私、もう一度小五郎さんの方言聞いてみたいんです。」

急なお願いに一瞬きょとんとした表情になったが、すぐさま真面目な顔で

「みか、此処京では長州の人間だと分かれば、捕縛されたり、悪ければいきなり切り捨てられる事だってあるんだ」

真剣な眼差しで小さな子どもを窘めるように話す小五郎さん。

「だからだめだよ」

「でも、さっきは」

「さっきはつい興奮してしまってね。あんなことじゃ駄目なんだが…」

ふうと自嘲するように小五郎さんはため息を吐いた。

みかはまだ納得がいかないらしく、手を顎の下にあて、思案するようにじぃっと一点を見つめている。

その様子が可愛らしくて見つめていると、急に羽織の袂に手を添えられた。

はっとみかを見ると上目遣いで花の様に微笑んで、

「じゃあ、私と二人っきりで興奮するような事があれば方言が出ます?」

「………んな、なんちゅうことをいうんじゃ!」

「あ!でた!!かわいいー♪」

(…やられた…)





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