新たな発見


長州藩邸奥の間

普段は客人を招いて会合をするための広間は、女物の反物や帯、そして小物の海となっていた。
藩が贔屓にしている御店の主人や女将が今日のために集めに集めた品々らしい。



「この反物にこの帯とこれとこれとこの帯締めで…よし、これでいい!」

「こ、これでいいんですか?」

「おう!きっと似合うぞ!!」

「なんか…すごく斬新ですね?粋って言うか、なんとなく大人っぽいし…」

「そうだろ?きっと似合うぞ!」

「さぁ、あわせて見せろ」と満面の笑顔でいう高杉さんを、少し離れたところで着物を見ていた桂さんが制した。

「晋作、無理強いしてはいけないよ。いちこさんにも好みがあるんだから」

「む、いちこは嫌がったりしていないぞ!」

「そうかな?いちこさんにはこちらの方が似合うと思うよ。」

どうかな?と手にした反物をはらりと広げて見せてくれたのは淡い色合いにかわいい撫子の柄の反物。

「わ!かわいい!」

私の反応に桂さんはにっこりと微笑んでくれたが、高杉さんは少しぶすっとした表情。

(個人的には桂さんの手にあるものが自分好みだけど、せっかく高杉さんも一式選んでくれたし、たまに冒険するのもいいかも。幅が広がるかもしれないし)

「高杉さんの選んでくれたのをとりあえずあわせてみますね」と声をかければ高杉さんは満足そうに「早くみせろ!」という。

肩から反物をかけてもらい、顔映りや組み合わせをみていると意外としっくりくる。

「お嬢さんは色も白くてお美しいから何でもお似合いになりますよ」と呉服屋さんも言ってくれるし、嬉しくなって高杉さんの方へ見せ、更に桂さんにもと向きを変えると桂さんが少し渋い顔で見ていた。

「か、桂さん?」

「あぁ、すまない。なんだい?」

「いえ、やっぱり似合いませんか?こんな色っぽい大人な着こなし…私には無理ですよね」

しゅんと項垂れた私に桂さんは慌ててとりなすように声をかけてくれる。

「いや、違うんだ。ただ、全て晋作が言うとおりだとせっかくのいちこさんの可愛らしさが隠れてしまうんだよ。」

「だあ〜!いいじゃないか!俺はこの方が好きなんだ!」

「そうは言ってもだな、いちこさんは遊女などとは違うんだ。そんな品のない組み合わせより、この着物ならこちらの帯の方が映えるよ。この扇面が帯の色と「そんなことはない!こっちの方がいちこには合ってる!」

大声で自分の意見を主張する高杉さん
それにも負けず、桂さんは冷静な声色で的確に更に反論していく。

そんな様子に呉服屋さんのご主人も藩士の人たちも苦笑いを浮かべていた。

それにしても、さすが桂さんは変装もするだけあって、女物の着物にも詳しい。

ことごとく意見を潰された高杉さんは悔しそうな表情で
「…………小五郎、いちいち細かくうるさいぞ!大体、それはお前の好みだろう!いちこをお前好みにしようという魂胆か!」
と言い放った。

「な!!!違わーや!!何言うとか晋作!私は良かれと思って」

「違わせん、わかっちょらんのか?いけんなぁ。小五郎、おまえはやっぱりにぶちんじゃ!!!」

「なにをいうちょる。そんなことはないほ」

「いや、ある!」

「ない!」

一瞬、しんと静かになった部屋に高杉さんの声が響く。

「むぅ、この石頭め!!おれは部屋にいぬる!!!」

バタバタと高杉さんがでていき、部屋は一気に静かになった。

慌てて追いかけようとする私や藩士の人に桂さんが制す。

「あいつは駄々ぁこねてるだけじゃ、もうほうたっちょけ!」

「いいんですか?」

「うん。ほおっておけばええんじゃ」

「はぁ…わかりました。それにしてもお二人は本当に気を許しあってるんですね。」

私の言葉に虚を突かれたのか、きょとんとした表情になった桂さんは、次の瞬間にはいつもの桂さんに戻っていた。

「それはどういうことだい?」

「桂さんって高杉さんの前でだけむきになりますよね。」

「…そんなことはないとおもうんだが…童のようにみえたかい?」

「ふふふ、そうですね。ちょっとだけ新しい桂さんが見れて嬉しいです。」と言葉を返すと少し恥ずかしそうに微笑む桂さん。

その美しさにただただ見惚れてしまっていた。




「でもね、昔閉じてしまった扉や新しい扉を開くきっかけをくれるのはいつでも君なんだよ。君は気づいていないかもしれないけどね」

小さく呟かれた言葉は誰の耳にも届いていなかった。

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