年貢の納めどき
「…こういう店もそうだけど私は逃れるためにそれこそあらゆる手段をつかってきた。
武士らしくないという人も多々いるけどね」
小五郎さんの辛そうな表情から逃げる事が肉体的にも精神的にも大変だった事が想像できる。
思わず小五郎さんの手を取り、きゅっと握り締めていた。
「私、逃げる事が悪い事だとは思いませんよ。本当は小五郎さんはとっても強い人なのに、自分も他人も傷つけないための素敵な手段です!そういうことは本当に強い人にしかできないことです!!」
そう言い切った私にびっくりしたような表情の小五郎さんは本当に嬉しそうに微笑み、
「そうかい。そんな風に言う人は初めてだ。かえにそう言ってもらえるだけで充分だよ」と膝立ちになっていた私をぎゅっと包み込んだ。
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(たった一言で救われた気持ちになるのはなぜだろう。不思議な子だ。心が温まる)
抱きしめられるままにされていたかえの手がおずおずと私の首に回ってきた。
耳元に唇を寄せ、内緒話をするかのように「でも…逃げるのは敵の人からだけにしてくださいね?」と言った。
「え?どういうことだい?」
耳元を擽る吐息への動揺を隠しつつ返答をする。
「小五郎さんは時々仲間の人からも逃げている時がある気がするんです。」
「…」
肯定も否定もせずに黙っていると、
「…でも、私はそう簡単に逃がしませんよ、小五郎さん」
とかえは囁くと、ちゅっと耳に口付けを落とした。
驚いて、かえの顔を覗くと上目遣いで微笑み、いつもの可愛らしい笑顔とは異なり、妖艶な女のものだった。
「全く…かえ、君には敵わないね。こんなところでそんな事を言われるとは。君には逃げの小五郎を返上しないといけないね」
「こんなところ?」
「そう、こんなところ。」
(もう私も君からは逃げる気は全くないけどね?)
《アトガキ》→
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