紫陽花
しとり、しとり。
落ちる雨音は耳に心地好く響いた。庭に咲く紫陽花が彩った紫のグラデーションが雨露を纏う。わたしはその美しい姿に瞬きを忘れるほど見とれていた。
「――…おや」
風邪をひいてしまうよ。
不意に、縁側で惚けているわたしを見つけた桂さんに声を掛けられ、途端にどきりと胸が跳ねた。
「梅雨は湿気寒いからね、体を冷やすといけない」
「あ………」
ふわりと体が何かに包まれる。…桂さんの羽織だった。
温かくて、良い匂い。
「ありがとうございます…」
「礼には及ばないよ。……あぁ、紫陽花だったのか」
わたしが何故縁側で座り込んでいたのか、その理由に気がついた彼が頷きながら言って、静かに傍らに座った。
「…綺麗だね」
感嘆の声にわたしも頷き返す。
…内心は少し複雑だった。この人のように綺麗な男性に「綺麗」と褒めてもらえるなんて。例え相手が意を持つことのない植物でも、嫉妬を感じるほど羨ましかった。
わたしはこの人が好き。
優しくて、強くて、少し意地悪で……、だけどやっぱり優しい桂さんが。
慕情を伝えるつもりは今のところない。
彼は今、とても大きな大義を果たそうとしているから。
………だけど、苦しい。誰かを想うのって、どうしてこんなに切ないのだろう。
「……蘇芳さん?」
はっと我に返り彼に向き直ると、誤魔化すように笑って見せる。
わたしは今、どんな表情をしていたのだろうか。
「何でもないんです!ただ…紫陽花が、羨ましいなって」
「紫陽花が…?」
苦笑しながら頷き、出来るだけ明るく答えた。
「そのままの姿でも十分綺麗なのに、雨に濡れるともっと綺麗で…」
「…うーん、確かにそうかもしれないね」
「……わたしも、雨に濡れたら綺麗になれるかなぁ…」
「……え?」
しまった、喋りすぎた。
目を丸くする彼に向かってぶんぶんと首を振る。
「違いますっ。えっ…と、今のは……!」
恥ずかしさに顔が熱くなる。
わたしは必死に言い訳を探した。けれど、さっきの言葉は本音も本音。もしもあの紫陽花のように綺麗になれたなら桂さんに褒めてもらえるだろうか…、という細やかな願望だった。
「……………」
「……………」
沈黙が訪れる。
……あぁ、どうしよう。気まずい。
機転の利いた言葉も思い付かず、益々温度が上昇する両頬を隠すように手で覆った。
「………ふ、ははは」
「……!」
挙動不審なわたしの姿に腹を抱えて笑いながら、いい子いい子するように頭を撫でる。
「君は、可愛いことを言うね」
「……かわ、いい?」
思わず聞き返すと、目を細めながら微笑みで答えてくれた。
「可愛いよ、とても。…何せ君は…―――」
「―――…えっ」
耳元に唇を寄せられ、続く言葉を囁かれる。
『君は、私がずっとお慕いしている女性だからね』
…わたしは夢を見ているのだろうか。貴方がわたしを慕ってくれていたなんて…。想い合っていた事実に涙が溢れた。
頬の滴をたおやかな指で拭い、少し困ったように笑んで、
「泣かせるつもりはなかったのだけど…」
ふわり、と。羽織よりも温かい彼の腕に包まれる。その温もりはどこまでも優しくて、力強かった。
……なのに、桂さんは。
「……涙に濡れた君は、もっと可愛いかもしれない」
そんな意地悪な事を呟きながら、わたしと紫陽花を重ねて愛でるのだった。
――想い叶った、雨の季節。
『紫陽花』
(嫉妬した相手がまさかのキューピッドだったなんて!)
終
◇◆
6万打HIT御礼フリリク!第二弾は蘇芳様(^∀^)ノ♪
『甘甘、雨に濡れる紫陽花を一緒に愛でたい』というリクエストでした☆ん…、これって甘い、かな……?甘甘って甘いの二乗だよね?果たしてリクエストに応えられているのか…(°□°;)!?
あああ何だかごめんなさい…orz!いつもながら愛情込めるだけでは至らないかもしれませんが…どうか、受け取って下さりますように…!←
因みに紫陽花の花言葉は『ひたむきな愛情』。他にはちょっと辛口なものもあったのですが、このSSではこちらを参考にしました☆
人知れず一途に想い合っていた事実を紫陽花が教えてくれた話でした。相変わらず解りづらい文章ですみません!
これに懲りず、これからもどうぞよろしくお願い致しますー(*^^*)♪
by瀧澤*
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6万打HITおめでとうございます!!!!!
眠い目をこすりながら頑張ってリクした甲斐がありましたw
ちょっと季節先取りリクで「どうかなー?どうかなー???」だったんですが、快くお受けくださってありがとうございました!
充分甘甘ですよーw
ご連絡をいただいて、すぐに見に行ったんですが、朝からニヤニヤw
作品も愛情も丁重にいただきます♪
瀧澤様のおうち
sugar girlはこちらからどうぞ♪
20110430 蘇芳
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