沖田総司




――また君は逃げるんだ。
…そして僕は、また逃がす。




「――あの、沖田さん」


この辺で良いです、と何時もの様に君が切り出す。
今日も何時も通り甘味処で過ごして、すっかり日も暮れて。もうお約束となった別れの交わし言葉が紡がれたのだ。
だけど今日の僕は、少し意地が悪かった。


「…でもだいぶ日も暮れてしまったし、ご主人に怒られるんじゃない?」


大丈夫なの、と静かに問うと、困惑した君が言葉を詰まらせる。
…あぁ、その顔も可愛いかも。
なんて、本当はそんな事を思う余裕なんて僕は持ち合わせていない。


「…分かった。此処までにしておく」

「……ごめんなさい」


謝る彼女に笑顔を返した。


「此方こそごめん。…また会ってくれるよね?」


……つい本音が出た。
意地悪して嫌われたくない。許される限り、何度でも会いたい。


「はい、もちろん!」


その一言に心底安心して、また何時もの様に手を振り別れた。

……本当は全部知っているんだ。君が何処へ帰るのか。
だけど僕は、態と知らないふりをする。

只、君に会うが為に。

………果たして、逃げているのはどちらだろうか。







沖田総司
『のらりくらり』


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