武市半平太




僕はこの娘に会うまで、志の為ならば命を失う事すらいとわなかった。
失うものなど無い、と言っても過言ではなかったのだ。

……だけど今は。

この腕に抱く温もりを失いたくない。
柔らかな肌、繊細な髪、華奢な肢体。彼女のすべてを失うことが恐い。
愛しくて愛しくて堪らないのだ。

…まさか己が、これほどまでにのめり込むとは思っていなかった。



「――武市さん」

「…まだ君はそう呼ぶの?近い内に同姓になると言うのに」




――勿論、志を諦めたわけではない。それは未だ僕の中に高く在る。
だけど、穏やかで細やかな君との暮らしも、なかなかどうして心地良いものか。







武市半平太
『志は高く』


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