ひとつ屋根の下〜三人の想い〜


蘇芳さんが藩邸にきてからというもの・・・
毎日が明るく輝いている。

愛らしい顔で、泣いたり、笑ったり、怒ったりまったく忙しい娘だ。
何事も一生懸命でそれがまた愛らしい。
ついついその所作に目がいく。

蘇芳さんに出会ってから、身体が先に動いていることが多くなったような気もする。
そんなことがあるのか?この私が。
計算外の行動、理屈抜きの行動、まるで晋作が二人になったようにも思えた。
私が月となり、日陰となり守らなければならないものが二人。
親のような気持ちで見守らねばと・・・
しかも、晋作があれだけご執心とあらばなおさらと思っていた。


しかし・・・


◇◇◇◇◇


いま、目の前で蘇芳さんが眠っている。

あの神社の注連縄に触れたとたん、空に浮かんだ蘇芳。
このまま蘇芳が居なくなったらと思うと、無我夢中で蘇芳を抱きしめていた。
あのまま、蘇芳が居なくなっていたら・・・

このまま蘇芳が目を覚まさなかったら。
私はそうなるまで本当の気持ちを判らなかったのだ。

私が本当に欲してやまないものが目の前にある。
目を覚まさない蘇芳を前に、半身を奪われたような喪失感に苛まれる。
眠っている蘇芳の髪を撫でながら、どこにも行かないでほしいと願う。
蘇芳の頬をなでると、柔らかな感触、暖かな感触が伝わり、愛おしさが込み上げてくる。

この小さな愛らしい蘇芳を誰にも渡せない。渡したくはない。
蘇芳が私に気づかせてくれたのだ。
私にとってなにが大切かということを。

「ん・・・」

目を覚ましたのか?

「蘇芳?」

私は、思わず蘇芳を抱きしめていた。

「蘇芳、どこにもいかないでくれ。
 私がどんなことがあろうとも蘇芳を守るから。
 誰にも渡したくはない・・・・ 」

更にきつく蘇芳を抱きしめていた。
目を覚ましてくれてどれだけ嬉しかったことか・・・

私にとっても、大切なもの・・・
蘇芳、そして蘇芳とともに過ごす時間。
誰であっても蘇芳は渡さない。
それが晋作であっても・・・

理屈や理論ではなく、蘇芳が必要なのだ。
蘇芳がいなくては・・・
これからどんなことがあろうとも蘇芳と共に。
この混乱の世も蘇芳と一緒ならば超えられる。

蘇芳、共に生きていこう。




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