ひとつ屋根の下〜三人の想い〜



「蘇芳ー、ちょっと来い!」

蘇芳の手を無理やり引いて、俺の部屋に蘇芳を呼ぶ。
どうしても蘇芳に渡したいものがあった。

この前、河原町の小間物屋で蘇芳が立ち止まり見入っていた簪。
舞妓が挿す花簪。小さな桜色の花がたくさんついた、愛らしい簪。
垂れ下がる花がまた愛らしい。
桜色の簪、かわいい蘇芳の前髪に挿したらどんなにかわいいだろう。
そう思うと、俺の方がどうしてもその簪がほしくなり、手に入れた。
ほしいならほしいといえばいいのに、蘇芳といったらそんなことは決して言わない。
そこがまた、愛らしい。


「蘇芳・・・」

簪を目にした蘇芳が子供のように目を大きく見開き、きらきらした瞳でその簪を見つめる。

「高杉さん、それって・・・」

蘇芳の頭を引き寄せ、手に入れた桜の花簪を蘇芳の前髪にさす。
思ったとおり、愛らしい・・・
思わず、蘇芳を抱きしめる。


「蘇芳・・・
 俺はお前じゃなきゃだめなんだ。
 お前だけを見てる。
 いつもお前とともに在りたい。
 だから、お前も俺だけを見ていろ。」

おもわず蘇芳の唇に吸い寄せられそうになる。
しかし、驚くことにこの俺様が躊躇し、その寸前で思いとどまる。
あわててことを運んではならないような気がした。
宝物のように大切に大切に蘇芳を育てていこうと思った。

「蘇芳・・・
 お前が望むことならば、俺はどんなことでも叶えてやる。
 お前だけの俺でいる。
 だからお前も・・・」

俺の思いの丈を蘇芳に告げる。
この俺がこんなに慎重になるなんて、俺が俺に驚いている。
今度ばかりは、勝手が違いすぎる。
それだけ、俺は蘇芳のことを、深く愛し始めている・・・

だからこそ、蘇芳は誰にも渡さない!




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