出会い 20110323
「蘇芳ちゃん」
ここ何年も聞いていなかった名前を再び自分が口にする事になったことに私は戸惑っていた。
蘇芳ちゃんこと小笠原蘇芳は私にとって叔母にあたる人だ。
蘇芳ちゃんと兄である私の父とはとても年が離れていて、逆に私とは10歳しか違わなかったので、小さい頃からよく遊んでもらっていた。
それが約10年前、この京都で忽然と姿消し、そのまま行方知れずになっていた。
当時は誘拐だ、拉致だ、神隠しだと大騒ぎになったのだが、結局犯人が捕まるわけでも本人が出てくるわけでもなく、手がかりは掴めないまま迷宮入りしている。
その叔母の名前をなぜこの人が知っているのだろうか。
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へいせいの世。蘇芳の生きていた時代。
確かに部屋を見渡す限り見た事のない物ばかりだ。
というか、ここは日本なのかと問いたくなる位異国風の部屋。
しかし、河原町御池というからには日本で、かつ京なのだろう。
蘇芳から聞いた限りでは帯刀することも身分差もなく、平和な世のはずだ。
少なくとも自分が本名を名乗っても危険はなさそうだ。
「俺は高杉晋作。」
「は?高杉晋作?」
訝しげな視線が藍と名乗る娘からぶつけられる。
「蘇芳ちゃんとお知り合いなんですか?」
「蘇芳は長州藩邸で世話をしていた娘の名前だ。お前と同じせいらあ服を着て、突然現れた不思議な娘だった。」
厳しい表情だった彼が何かを思い出したようにふっと微笑んだ。
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(高杉晋作って…同姓同名?親がファンとかで名付けられた可哀想な人とか?それとも偽名?長州藩邸で世話ってどういう意味?)
疑問符ばかり浮かぶが、目の前にいる高杉晋作を名乗るこの人は悪い人には見えない。
少し釣り目で笑うと八重歯がでて年上なのにやんちゃな印象的な人だった。
確かに私は蘇芳ちゃんと同じ制服を着ている。
大好きだった蘇芳ちゃんの母校に進学したのだ。
この人は蘇芳ちゃんの何かを知っている。
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