出会い 20110311
平成2×年3月某日早朝
「あ〜寒いけど気持ちいい〜!」
大きく伸びをして吐いた息は白く立ち上って消えていった。
藍は滞在中のホテルの周りを散歩していた。
大学受験合格のお祝いに何がいいかと祖父母に言われ、「何も物はいらないから素敵なホテルでゆっくり過ごしたい」と告げると河原町御池にあるこのホテルをとってくれたのだ。
4月からは両親の元を離れ、京都での大学生生活が始まる。
卒業式も無事終え、今着ている高校の制服ともこれでおさらばだ。
同じ大学に進学していた兄は無事医学部を卒業し、春から大学病院でインターン生活を始める。
明日から私は兄の住むマンションで2人暮らしをすることになっているので今日だけは一人の時間を満喫しようと張り切って起きたのだった。
早朝だからか道にはほとんど人通りもなく、澄んだ空気が背筋を知らず知らずしゃんとさせる。
「う、う・・・ん」
ふいに人の気配と声がし、そちらに目を向けると、ある偉人の銅像の前のベンチ近くにうつ伏せに倒れている人を見つけた。
体格からいって男性のようだ。
その恰好は特攻服のように背中にデカデカと文字がかいてある上着。
腰には大小の太刀。
明らかに「彼」に違和感を感じるが、今時期の京都でそんな薄着では風邪をひいてしまう、いやヘタすると凍死してしまうと心配になって近づいた。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
おずおずと声をかけるが反応は鈍い。
何度も声をかけるとその人は薄く目を開き、
「う…ん…せえらあふく?蘇芳?」
と小さく呟くとまたも眠りに落ちていった。
眠りに落ちていった彼に触れると、外気はこんなにも寒いのに体温が異常に高い事に気付き、とりあえず彼の荷物らしきものを拾い、部屋に連れて行く事にした。
かといって、藍一人で男性一人を抱える事は到底出来ず、彼をもう一度揺り起こし、歩くのを協力してもらいつつ、ホテルの自室へ戻った。
ホテルの都合で偶々ツインルームになったその部屋の自分が使っていない方のベッドに横たわらせ、様子をみることにした。
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