手と手
日中の茹だるような暑さとは異なる爽やかな早朝の炊事場
乾燥させたワカメを細かく切って、塩とゴマとしそを混ぜ合わせおにぎり用のふりかけを作る。
「おはよう、蘇芳さん。今日は特に早いね」
「おはようございます。桂さん」
朝餉の支度に来た桂さんが珍しそうに私の手の中を覗きこむ。
「ん?これは?蘇芳さんが作ったのかい」
「はい!私が大好きだったふりかけを思い出して作ってみたんですけど」
「そうかい、長州でもこんなふうにわかめの握り飯をたべるよ」
少し目を細めてふりかけを眺めている桂さんはもしかしたら長州のことを思い出してるのかもしれない。
「え?そうなんですか?」
「うん、なんだか懐かしいな」
「あ、そうかも?」
「うん?」
(たしかあのふりかけ、山口の会社のものだった。)
「いいえ、なんでもないです。」
「ところでなんで蘇芳さんは朝から握り飯をつくっているんだい?」
「あ、昨日の夜、高杉さんが部屋に来て、今日一緒に出掛けるからお弁当を作れって言われたんです!」
久々のお出掛けが楽しみだった私はニコニコしながら桂さんに答えると
「ほう…。今日は晋作は一日藩邸で会合のはずだけどな」
ニコリと桂さんが笑みを浮かべた瞬間、ゾクリと背筋に何かが通った。
(あれ…?まずかったかな…?)
「仕方のない奴だ…すまないが、晋作とは今日出掛けるのは無理だよ。」
「そうですか。残念ですけどお仕事なら仕方ないですね。」
「せっかく蘇芳さんが作ってくれたんだから晋作にはちゃんと食べてもらおう。藩邸の中で。」
「え、でも山ほど作っちゃいましたよ?」
ふむ、と考え込む桂さんの返答を待っていると
「それはもったいないね。じゃあ、私の用に同行するかい。外出する予定なんだが、道程にとても素敵な場所があるんだよ」
と思いもよらないお誘いをもらった。
「え!!!!ご一緒していいんですか?」
「最近あまり外出させてあげられなかったしね。私とでもかまわないかな?」
「そんな…。とても嬉しいです。」
(高杉さんには申し訳ないけど…桂さんと二人でお出掛けなんで…嬉しい!!!)
私は張り切ってお弁当作成に戻り、3つのお弁当を作り上げた。
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