花冠

(蘇芳)

暖かい日が続くようになってきたある日、藩邸の庭の隅っこに春を告げる見覚えのある可愛らしい白い花をみつけ、つい歓声をあげてしまう。

「わぁ、クローバーだ!」

「くろぉばぁ?」

「これです。シロツメクサ!」とその花を指差せば、ああと合点がいった様な表情で
「ああ、それはギヤマンの積み荷にはいっているものだね」とその人は優しく微笑む。

「ギヤマン??」

聞き慣れない単語を彼にそのまま鸚鵡返しにすると丁寧に説明をしてくれた。

彼の説明によると、南蛮渡来のガラス製品のクッション材代わりに使われているものでそれが野生化したものが咲いているとのことだった。

幼い頃に一面に広がるその花を摘み、友人や親兄弟と遊んだ思い出が湧きあがる。


(長州藩 桂小五郎)

懐かしいですと微笑みながらその花に手を伸ばそうとするその顔には少し翳りがあるようにも見える。
郷愁の表情だろうか…。

「誰かが育てているという訳じゃないのなら少しお花を摘んでもいいですか?」

一瞬だけ垣間見えた翳りは消え、嬉々とした表情に変わった蘇芳は幼い少女のようで断わりようもなく、
「ああ、自生しているだけだから構わないよ」と答えれば「ありがとうございます」と応え春風のように花の元へ駆けていった。



〜数日後〜

「これを小五郎さんに!」

微笑みと共に差し出された淡い桃色の千代紙を受け取った。
千代紙の中には押された植物の葉が入っている。

「これは?」

「先日のクローバーの葉です。この花の葉はほとんどが三つ葉ですけど、極稀に四つ葉のものがあるんですよ。
それを見つけたので。
1枚目は誠実、2枚目は希望、3枚目は愛情、そして4枚目は幸福なんですって。
この前、花冠を作っている途中で見つけて小五郎さんに差し上げようと思って。
全ての物が小五郎さんの手に入りますようにと願いをこめて」


蘇芳の可愛らしいそして優しい心遣いをとてつもなく嬉しく感じる。

だが、この四つ葉のくろうばぁがなくてもどれも容易く叶いそうだよ。

君さえずっとわたしの傍にいてくれれば…。


「ありがとう」



態と耳元で囁いて、真っ赤に染まる頬に手を添え、桜色の可愛らしい唇に口付けを一つ落とした。



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