Valentine story 大久保編

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ある日の朝、大久保さんからの預かりものだと女中さんが部屋に春の花が可愛らしく咲いた鉢と可愛い小箱に入った黒いお菓子の様なものを持ってきてくれた。


その夜、大久保さんが珍しく予定より早い時間に自室にいたのでお礼を言いにお茶を持って部屋を訪ねた。

「失礼します。お茶をお持ちしました」

「入れ」

襖を開けると、机の角にお茶を起き、お礼を告げると残念そうな表情の大久保さんが見えた。


(お礼言って残念そうな顔されるって…)

大人しく大久保さんの次の言葉を待っていると
「今日中に戻れるかわからなかったから渡すように頼んだのだが…今日は欧米では男が愛する女に花や贈り物をする日だろう?未来でもまだ伝わってないのか?」

せっかく手配したのにつまらんとぶつぶつ呟く大久保さんを見てふと考えてみる。


(え!今日は…2月14日?
って!バレンタインデー?
バレンタインデーを忘れてるなんて女子力低っっ!!!
しかも…よりによって好きな人に教えられるなんて…。)


「小娘…。なに百面相をしている。阿呆が余計に阿呆に見えるぞ」

「阿呆って!」

「真実だ!何か反論があるのか?」

(確かに女子の一大イベントを忘れるなんてアホかも…)

「いえ…今日はバレンタインデーですよね。すいません。すっかり忘れてました」
しゅんとしながら答える。


「ほう。知識はあるのか」

「でも私の知っているバレンタインデーと欧米のそれは違うんです。違った伝わり方をしたというか…」

しどろもどろになりながら答えると

「違う伝わり方?」

眉根を寄せて怪訝そうに顔を向ける。

私が日本のバレンタインについて説明をすると

「ほう。女子から好いた男や世話になった者に贈り物とな。
なのに忘れていたと…。
こんなにも私に世話になっているのになぁ」

「う゛っ…」

「周りは皆私と恋仲だと思っているのになぁ」

「う゛う゛っ…すいません…」

段々と項垂れて頭が下がっていく私に
「よし。顔をあげろ!小娘」と声がかかる。

顔をあげると口の端を上げてニヤリと意地悪く笑う大久保さん。

「さぁ贈り物をする機会をやろう」と机に肘をついて顔を乗せる。

「え?」

言われている意図が分からず、回りを見回していると

「口付けでよいぞ」

「えええっ!って私から?」
自分でも真っ赤になっているのが分かるくらい顔が熱い。

「当然だ。贈り物だからな。他のものをもらってやってもいいんだぞ?」とニヤリ。


(他のものって!!!)

こうなった大久保さんを止める術はなく、「目を瞑ってください」とお願いし、観念しておずおずと近付き、目をギュッと瞑って頬に唇を寄せた。

チュと頬にしたはずだったが、感触の違和感に目を開けると目の前には大久保さんの双眼!!!!

「小娘…口付けは唇にするもんだ」

バレンタインデーも悪くないなと高笑いをする大久保さんを尻目に部屋に逃走した。




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